↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンデッバッグド・ライフ 九死に一生を得すぎた男、神がデバッグを忘れたとしか思えない件  作者: 桜ジョー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/12

第10章:相撲をすると

ガンダム好きしか勝たん!

痛み指数:[Pain Scale: ■■■■■■■■□□ 8/10]

ステータス:Urethral Invasion v2.0(尿道侵入・再起動)


 中学生になった私は、本来なら卓球部に入るはずだった。 

 部長を務める兄がおり、顧問からも熱烈な勧誘を受けていたからだ。

 だが、私はテニス部を選んだ。理由は2つ。片目では卓球の超高速変化に対応できないという物理的限界。そして、当時流行っていたテニスアニメへの安易な憧れである。


 しかし、入部してみれば現実がアニメを超えた。


 球拾い専門のはずの1年生でありながら、夏の大会で先輩や他校生を撃破。数10人の部員がひしめく中で、わずか3枠のレギュラーになってしまったのだ。


「桜のタイミングに合わせろ!」

 コーチの檄が飛ぶ中、全部員の前で模範ボレーを披露する日々。

 先輩の嫉妬よりも、背後に突き刺さる何10人もの視線が、私の精神を削り取っていった。


 そんな折、体育の授業で「小さな悲劇」が起きた。 

 種目は相撲。 対戦相手は、中学生とは思えぬ体躯から「おっさん」と渾名される重量級の秀才。

 彼は私の本能的な動きを研究し、緻密な「対ジョー戦略」を練っていた。


 見合う2人。体育教師の合図。勝負は一瞬だった。


 ガシッ、ふわ、ガンッ!


 彼にタックルされ、鮮やかに足をすくわれた。 その瞬間、天動説が正しかったかのように、天空がクルリと回転した。コペルニクスには申し訳ないが。


 そして瞬時にブラックアウト。私は重力に逆らえず、後頭部をしたたかに地面へ叩きつけた。私のシステムは強制終了した。 (ちなみに勝負は、相手の「危険行為」による反則勝ち。気絶して勝つという不条理である)


 目が覚めると、そこには見覚えのある天井があった。 ……あの病院か。尿道か。マジか。


 傍らには心配そうな母親。医師は一週間の安静を告げるが、私の関心は一点に集中していた。


「トイレ」だ。


 前回、尿瓶(しびん)を拒否して地獄を見た私は、今回こそスマートに「尿瓶デビュー」を飾るつもりだった。


 しかし、頭痛のせいか、あるいは「絶対安静」という呪文のせいか、蛇口は固く閉ざされたまま一滴も出てこない。出そうとすればするほど、意志と肉体は乖離していく。


「お母さん、ちょっとあっちへ行っていてくれないか」

 思春期の入り口に立つ少年として、母親の前で「息子」がトランスフォームする姿を見せるわけにはいかない。

 

 だが、そんなナイーブな願いは、にこやかに現れた看護師によって粉砕された。


 彼女の手には、例の「無慈悲なゴムチューブ」が握られていた。


「早い、早すぎるよ、スレッガーさん……」


 脳裏に悲劇の連邦軍パイロットの名シーンが浮かぶ。

 が、現実も無情だ。二度目なら痛くないなどという希望的観測は、侵入の瞬間に絶叫へと変わった。


「痛い!痛い!!」


 慣れなどない。異物が尿道を蹂躙する痛みに、思春期の羞恥心など一瞬で蒸発した。


 1ヶ月後、部活に復帰した私を待っていたのは、「桜は退部した」という顧問の盛大な勘違いだった。

 入院の事実は共有されず、私のレギュラー座は跡形もなく消えていた。

 だが、不思議と悔しさはなかった。ようやく「普通」に戻れた解放感が心地よかった。


 ふと思い出すのは、小学生の頃に兄とケンカして、背負い投げで沈めた記憶だ。 泣き出す兄の姿を見て、私は知った。「勝つことの虚しさ」を。それ以来、勝負を譲ることを覚えた。この「勝ちを譲る」性格が、当時の私の安堵感に繋がっていたのかもしれない。


 頭蓋骨と尿道。上下から攻め立てられた中学時代の受難は、これで打ち止めだと信じていた。 そう、尿道に関わる不条理など、この先の人生で二度と起こるはずがないと――。

スラッガー中尉に申し訳ない。

ファンの方、ぜひぜひ★★★クリックしてね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。