閑話:ワットモア侯爵家
皇帝バルトロメウスが、末の息子に残念な目で見られていた頃。
ワットモア侯爵家のシガールームでは、現侯爵のゴディアス(四十才)がタバコを吸いながら、嫡男のファラム(十八才)に話しかけてきた。
「で、お前は『創造神の愛し子』に会うことができたのか」
興味津々な顔で、息子へと問うゴディアス。
「無理ですよ。聖騎士たちが、あの変な家の前にへばりついてるんですよ?」
ティーカップを手に、嫌そうな顔で答えるファラム。
ゴディアスに言われて、ファラムは護衛たちとともに噂の『創造神の愛し子』の様子を見に行った。それは他の貴族家も同様で、少し距離を置きながら様子を伺っているのを見ている。
しかし、白い土塀に囲まれた家の中を見ることもできず、聖騎士たちにも睨まれて、結局帝都に戻るしかなかった。
「……それでも、外に出るとか、窓際にいるとか、姿くらい確認できなかったのか」
不満そうに言うゴディアス。
最初、彼の耳には『創造神の愛し子』が男のような姿をしていたという話が届いていた。しかし、実は女性だったという話を聞き、俄然興味が湧いたのだ。
「まったく、『創造神の愛し子』が男であればジャンナをと思ったが、アレはしばらく無理だし、代わりにカーリを還俗させて嫁がせることも考えたんだが」
ワットモア侯爵家は、嫡男のファラムの他に、二人の娘がいる。
長女のジャンナ(十八才)と、聖女候補で神殿に上がっている次女のカーリ(十三才)だ。
ジャンナは少し前に皇子の婚約者候補から外され、そのショックで今は遠く離れた領地で療養をしている。
カーリを還俗させるのには、手間がかかる上に、多額の金もかかる。
「私ですか? やめてくださいよ。私は宰相の縁戚のプリシラ嬢と、ようやく婚約が整ったんですから」
「フンッ、所詮、伯爵家の娘だろう。そんなのより、『創造神の愛し子』をとりこめたほうが、よかろうが。皇子は無理だったが、神に連なる者のほうが……」
「父上、現実を見て下さい」
呆れたように言うファラム。
ゴディアスは皇子の婚約者に選ばれたタマラ・エスプラ公爵令嬢の父、フラド・エスプラに学生時代から強いコンプレックスを持っていた。
同い年で、皇帝の側近の一人でもあり、何より、ゴディアスの初恋の人、メラニアと結婚もしているフラド。
それを意識してか、メラニアの従妹を妻に娶り、長男と長女までも同い年に生まれた。
違いがあるとすれば、末子。ゴディアスのところは娘のカーリが、フラドのところはカーリより一つ上に次男が生まれている。
――確か、フラドのところの次男は、まだ婚約者が決まっていなかったか。
ゴディアスは、次男が『創造神の愛し子』を娶るのではないかという、考えが浮かんでしまった。
「であれば、いっそ私の愛人に……」
「父上、いい加減にしてくださいっ」
――下手なことをされて、我が家を潰されてはかなわない。
心の中で、早めに神殿に相談せねば、とファラムはお茶を飲み干すと、お先に、と言って、シガールームを出ていく。
残されたゴディアスには、ファラムの言葉は聞こえていない。
ひたすら、一人でブツブツと呟き続けた。




