第69話 こんにちは、イダ様
ギーッと扉が開く重い音が響く。
中は外からの日差しのみで、若干薄暗い神殿の内部。正面には巨大な石像。モブル王国で見た教会の石像(二メートルくらい)と同じ物で、あれよりも少し大きい。
聖女様はするすると前へ進んで行くので、私もマーコたちも大人しくついていく。
教会の中には信者らしき人々がチラホラ見えるけれど、皆、聖女様の姿に気付いて、跪いて両手を握りしめている。お祈りのポーズなんだろうか。
――うわ、私も、そうしたほうがよかったのかな。
内心、失敗したかなと焦ったけれど、後の祭りである。
石像の前まで進んだ聖女様が跪いてお祈りのポーズになったので、私も慌てて彼女の後ろで真似をする。
【イダ神様、無事に愛し子様が、我らが神殿にいらしてくださいました。感謝いたします】
『フンッ、無事に着いたのはニーコとマーコがいたからよ』
「(ちょっと、ユーコ)」
何やらユーコが不満げに言っているので、窘める。
『ああ、確かに、私の力ではないな』
聞き覚えのない、男性の優しげな声が聞こえてきて、バッと顔をあげる。
「へっ!?」
目の前の石像が濃い緑色の肩ぐらいまでの長いストレートの髪に、金色の目をした……大きなイケメンに変わっていた。
そう、大きい。まさに石像と同じサイズ。
『どうした。愛し子よ』
「え、あ、せ、聖女様!?」
声が裏返りながら前にいる聖女様に声をかけても、聖女様はピクリとも動かない。周りを見回しても同様で、誰も、この巨大なイケメンに気付いていないようだ。
『フフフ、この場で動けるのは私と、愛し子たちだけだよ』
まさかの時間が止まってる。
「おおお……ファンタジー……」
「あんたね。この前、教会で私たちに話しかけてきたのは」
私が引いていると、マーコが強気な発言で前に出てきた。相手があまりに大きいから、マーコが見上げ続けていたら、コロンと後ろに転げそうだ。
『ああ、そうだよ。ちゃんと連れてきてくれたね。ありがとう』
ニコニコ笑う大きなイケメン。
『私は春の神、イダという』
思わずポカーンとしてしまったのは、許して欲しい。
「フン、まったく。色々と面倒そうな国なのに大人しく来てやったんだ。ちゃんと雅のこと、守ってくれるんだろうね?」
「そうだよ。なんなんだ、あいつら。雅のことを馬鹿にして」
「え、誰が」
ニーコの爆弾発言にギョッとする。
「ん? あの聖騎士の中でもキラキラした偉そうな奴についてるやつらさ」
「雅が言葉がわからないからって、コソコソと悪口言ってたんだぜ」
「あいつら殺さなかっただけ、偉いと思わない?」
マーコとニーコの物騒な発言に、アワアワしてしまう私。
『……フフフ、彼らが手を出したら、神罰が下るから任せておきなさい』
イダ様は美しい笑顔を浮かべているはずなのに、真っ黒な笑顔に見えるのはなぜだろう。
「とにかく、聖女様にはご挨拶できたんだし、こっからは私たち、自由にしていいよね?」
「え、いいの?」
マーコの言葉に、思わず声をあげる。
そんなマーコに、困ったような顔をしたイダ様だったけれど、真面目な顔で私のほうを見た。




