第61話 出立の朝
翌朝、黙々と朝ごはんを食べていると、足元のほうではカリカリと猫エサを食べている音が聞こえる。
――本当に帝国に行くんだなぁ。
正直、いまだに『帝国』という響きへの拒否感は否めない。
それでも、聖女候補のヘルカさん? や聖騎士の方々の感じは悪くはなかったので、旅行に行く感じで向かうのはアリかな、と思うようにはなった。
それにしても、聖騎士団の男性たちの顔面偏差値の高いこと。女性騎士もいらっしゃったけれど、彼女も美人だった。
聖騎士になるにも美醜は関係あるのかもしれない、と思うほどだ。
昨夜はマーコに全てお任せしてしまった。一応、差し入れとして、マーコたちが狩ってくれた熊の魔物の肉を渡してもらった。低い歓声があがっていて、ちょっと迫力があってびびった。
ただ今更だけど、ヘルカさんと女性騎士を外で寝させてしまったことに、家に泊めたほうがよかったのかな、と少しだけ凹んだ。
『雅、外の連中が動き出した。何か街のほうから来たようだね』
「え、そうなの?」
私は慌てて食器をシンクへと持っていく。一人分の食器だから、洗うのもすぐだ。
長時間の移動を考えて、厚手のグレーのパーカーとジーパンに着替えた。裾は引きずる感じなので折り曲げる。そのうち背が伸びたら、ちょうどいい長さになるはずだから。
必要最低限の荷物をリュックに入れる。どうせマーコとニーコの『収納』に色んなものが入ってるし、万が一の時にはユーコがいる。
気が付いたらマーコたちはいなくなっていた。
リュックを背負って、家を出る。
視界を遮る結界の内側にいる聖騎士団の人たちが騒いでいたのは、結界の外にいる誰かと話をしているからのようだ。
そのそばにマーコとニーコがいて話をしている。
「マーコ、ニーコ」
「雅」
「みやびー」
トトトトトと駆け寄ってくる人型のマーコとニーコ。今日は袴姿ではなくいつもの作業着、オーバーオールの格好だ。
「誰か来たの?」
「うん、冒険者」
「冒険者?」
「ほら、僕たちの後を追いかけてるのがいるって言ってたじゃん?」
「その人たちが追いついたみたい」
「へぇ……よく見つけられたね?」
「やっぱり、街のほうでも聖騎士たちがいるのは気付かれてたみたいだよ。昨夜のうちに確認しに来てたし」
「えっ」
私はまったく気付かなかった。
接近に気付いたマーコたちが、夜間の見張りに立っていた聖騎士たちに声をかけて、対応してもらっていたようだ。
聖騎士一行は一度結界の外に出たら中には入れない仕様だったようで、マーコたちも付き合ってたらしい。
「あんまり遅くなると、この街の代官が来ちゃうから、さっさと移動したほうがいいと思うんだけどね」
「何それ」
「帝国の聖騎士一行だもの。接待したら、ちょっとは箔がつくんじゃない?」
めんどくさいなぁ、と思っていると。
【愛し子様。おはようございます】
【おはようございます。その格好は……もう移動できるということでしょうか】
ローブを羽織った聖女候補のヘルカさんと、一番身体の大きな聖騎士が私に声をかけてきた。
【オハヨ?ゴザマス?】
二人が言った、なんとなく耳に残った言葉を言うと、二人が優しい笑みを浮かべた。
「雅、すごいじゃん」
「ね、あれ、おはようって言ってたのよね?」
「そうそう」
マーコとニーコが親指をたててニカリと笑う。
「移動始めてもいいのかな」
「うん、荷物持ったし。でも、移動方法って馬?」
「雅を馬なんかに乗せるわけないでしょ」
「僕たちの背に乗ればいいじゃん」
「え……あ、あのスピードじゃなければ……いいのか?」
私の顔が引きつったのは言うまでもない。




