第56話 薬屋の娘
街での買い出しに、ウキウキワクワクの私たち。二度目ということもあり、少しだけ余裕がある……気がする。
裁縫スキルが生えたというマーコのために、もう一度服屋を見にいったら、もぬけの殻になっていた。
仕方がないので、通りすがりの人に布などを取り扱っている店を教えてもらって、そこで買えるだけ買った。
その後に薬屋に行ったら、また店番をしている女の子がいて、目を見開いて固まっていたのには、ちょっと笑ってしまった。
昨日は特段気にもしなかったけれど、10歳前後くらいの子供が、店番をしていて大丈夫なんだろうか、と少し心配になる。
とりあえず、昨日手にした二日酔いの薬の入った小さな甕を二つと、ミントの匂いのした胃薬の入った小さな巾着タイプの麻袋を三つ、それに同じようにカウンターに置かれていた茶色い紙袋を一つを手にして、女の子に差し出す。
【全部で1500ノル】
『銀貨15枚かな』
女の子がビクッとなる。
もしかして、この子はユーコが見えてる上に、声も聞こえてるんだろうか。
「ねぇ、ユーコ。あなた、私にしか見えないって言ってたよね」
『うむ……』
ユーコが難しい顔をしながら、女の子の目の前へと降りていくと、女の子はびっくりしながら後ずさっている。
――確実に見えてるでしょ。
私はユーコに目を向ける。
『この世界で私を見ることができる者がいるとは。しかし、この者には神が触れた跡が残っているようだぞ?』
「え?」
『この者の額に、小さな花の痣がある……これは人の目では見られないだろうな。雅には見えるかもしれんが』
言われてみれば、確かに小さなピンク色に光る痣がある。これが他の人には見えないのだろうか。
【お前、私が見えてるだろう?】
ユーコがこの世界の言葉で、女の子に声をかけると、一瞬、びっくりした顔をした後、コクコクと頷いた。
『ふーむ。もしかしたら、この娘は聖女となる者かもしれんな』
「えっ」
『私のような存在が、この世界にもいるのは知っている。いわゆる妖精とか、精霊とか言う奴らだ。ただ、私の存在が強いせいか、私たちの周りに現れることはないがな』
【見えていることを知っている者はいるか】
【……お姉ちゃんに言ったら、気味が悪いって】
【……】
【だから、おばあちゃんと一緒に暮らしてる】
ユーコが大きなため息をついた。
『この世界の聖女の仕組みはよくわからん。ただ、このまま放っておいていいのかも、私では判断できんよ』
「この世界のことは、この世界の人に聞かないと、だよね」
私たちが何を話しているのかわからないようで、困惑している女の子。
私はなんとか作り笑顔を浮かべて、リュックからお財布を出して、銀貨15枚を渡した。
ちょうどそこで店のドアが開いた。入ってきたのは柔和な顔立ちの老婆。
【おかえり、おばあちゃん】
【おや、お客さんだったのかい】
【うん】
【お薬、わかりましたか?】
老婆が優しい声で問いかけてくる。
『薬、わかったかって』
「適当に選んじゃってるけどねぇ」
私はとりあえず頷くだけ、頷いて、そのまま店を出た。
「あれ、ユーコは?」
今日は店の前でちゃんと待っていたマーコとニーコが聞いてきた。
あれ? とは思ったけれど、たぶん、中の女の子と話をしているのだろう。
「なんか、ユーコが見える子がいたの」
「えっ!?」
「なにそれ!?」
「びっくりだよね。見える上に声も聞こえてるみたいでさ」
「……大丈夫なのかな」
「中で女の子と話してるんじゃないかな」
「さっきおばあさんが入ってったけど」
「薬屋の店主みたいよ」
「ふーん」
そんな話をしているところに、薬屋の木製のドアからヌーッとユーコが出てきた。
「大丈夫だった?」
『さぁな。今まで誰にも信じてもらえなかったから、誰にも言うつもりはないようだ』
「あのおばあちゃんにも?」
『ああ。そうか、そうか、と流されてたらしい』
「……なんか、ちょっと可哀想だね」
私は後ろ髪を引かれる思いで、薬屋を後にした。




