閑話:服屋
ちょっとダークです。
読み飛ばしてもよいです。
薄暗い店のドアが開いた。
「いらっしゃい」
女店主は、無意識に声に出した言葉と同時に、視線をドアに向けると、子連れの男のような格好をした女が入ってきた。
チラリと着ている服に目を向ける。
――見たことのない生地。しかし、濃い紺は上等な染料でないとできないもの。
――背にしょってるのはなんだい。あれも変わった生地だ。
興味はあるが、表情にでないよう、手元の服の直しをしながら、子供のほうに目を向ける。
――女の子のほうはよくある平民の子供が着る服だけど、男の子のはまたいい生地を使ってるね。
三人の様子から、貴族か、金持ちの商家のお忍びか、と推測する。それにしても、護衛らしき姿は見られない。
じっとりと値踏みする目で見続けていると、結局、たいして高くない服を二着だけ買って出て行った。
その時に見た小銭入れ。これも赤みをおびた、いい艶の出ている上等な革を使ったものだった。
――獲物だね。
女店主がニヤリと嗤う。
「……あんた」
カウンターの裏手にある倉庫で昼寝をしている男に声をかける。起きだしたようで、ゴソゴソと音をたてている。
「今のいけるかい」
「ん……」
男は返事だけを返して、姿を見せないまま、裏手の出口から店を出て行った。
この店は、服屋といっても古着屋がメインだった。
しかし、その古着を仕入れるのにも、いい物ともなれば安くはない金がかかる。キリキリと胃の痛い思いをしながら、女店主は服屋を切り盛りしていた。
そんな中、そこそこ上等な服を着た娘が店にやってきた。
あまり顔色もよくなかった娘は、なんの因果か、店の中で倒れ、そのまま息を引き取ってしまった。
その娘が侍女の一人も連れていなかったのも、仇となった。
本来なら、すぐにでも衛兵を呼んで、家族へと引き取らせるべきだったのに、この状況に、女店主も魔が差してしまった。
娘の身元を調べることもなく、彼女の服をそのまま古着として売ってしまったのだ。
最初の頃こそ、いつか見つかるんじゃないかと怯えていたが、一カ月を過ぎても、誰も調べに来ることもなかった。
そこから味をしめた女店主は、ついにはヒモでもある男に殺人までさせてまで、服を手に入れるようになっていた。
女、子供相手なら、すぐにでも戻ってくるだろうと思っていたが、いつまでも戻って来ない。
――あいつ、そのまま、飲み屋にでも行ったとかないだろうね。
店を閉める時間になっても戻ってこないことに苛立ちながら、店を出る。
男が行きつけにしている店へと向かう道すがら、ある路地裏へと繋がる入口に人だかりができていることに気が付く。
――何かあったのかしら。
通りを歩く人々の声に耳をそばだてる。
『あの通りの奥だってさ』
『あそこは、子供らには行くなって言ってたところだよな』
『ああ、よく襲われるからってな』
『しっかし、大の男がってのは』
『よっぽど、ヤバいヤツがいるんじゃ』
女は胸騒ぎがして、人だかりのほうへと向かうと、入口に衛兵が一人立って野次馬が入らないようにしている。
「衛兵さん、何があったんだい?」
見覚えのある顔だったので女店主が声をかけると、衛兵のほうも覚えがあったのか、ああ、あんたかい、と応える。
「何、喧嘩だろうけどな、やられている男のほうが半殺し状態だったもんで、たまたま見つけた女性が大騒ぎしてな」
「そ、そうなのかい」
「ほら、まだ、その辺にヤッた奴がいるかもしれん。さっさと帰った、帰った」
「そんなに酷い状態だったのかい」
「ああ、顔の原型も残ってないほどにな。ありゃぁ、よほどの恨みをかってたんじゃねぇか?」
手でしっしっ、とされた女店主。
恨みと言われ、思い当たることが多すぎた。
顔を真っ青にした女店主は、自分の店へと足早に戻っていった。
雅たちが買った服は、そういう因果はありません。
マーコが選んだ服ですから。




