閑話:Bランクパーティー『暁と夕闇』
愛し子の移動のペースがいきなりあがり、聖女候補ヘリカが持っていた地図から、あっという間に消え去った。
その瞬間を見ていた第二聖騎士団 副団長のアレクシスと、聖女候補ヘリカ。
「ど、どうしましょう!」
ヘリカがあわあわしている一方、もうやる気が失せているもう一人の聖女候補カーリが「もう戻りませーん?」と声をあげた。
「そういうわけにはいかん」
難しい顔をした副団長のアレクシスではあったが、愛し子が向かった先がアルタン帝国の属国のモブル王国であったことに、少しだけ安堵していた。
これが他の国であったなら、四神の一人、イダの力の及ばない場所となったからだ。
しかし、あくまで他国。愛し子を追いたくても、帝国の聖騎士団が安易に入り込むわけにもいかない。
「だったら、うちが追いかけます」
声をあげたのはBランクパーティー『暁と夕闇』のリーダー、ホーク。
「斥候のオットーはモブル王国出身なんで。それに冒険者のほうが出入りしやすいですしね」
一番年下のオットーは、コクコクと頷いている。
アレクシスが迷ったのは一瞬。
「わかった。我々は一旦、帝国に戻り、モブル王国に改めて入国する。君たちは、愛し子様たちを追ってくれ」
「わかりました」
「ホーク」
声をかけてきたのはAランクパーティー『獅子の咆哮』のリーダー、レックス。元は、レックスからの声かけがあって、『暁と夕闇』が今回参加することになったのだ。
「我々は聖騎士団への報告のために一緒には行けない。悪いが、お前たちに託すしかない」
「そんな。気にしないでください」
「あのスピードでは、お前たちがどれくらいで追いつけるかわからんが」
「確かに。でも、俺たちだけだったら、もう少し早く動けると思うんで」
ホークとレックスは聖女候補たちをチラリと見た。特に、ぶつぶつ文句を言っているカーリのほうを。
「これを持ってけ」
レックスは、小さな麻袋を渡す。中には上級ポーションが二本入っている。
「いいんですか!?」
「ここから先は、四人で移動することになる。万が一もあるかもしれんからな。まぁ、お守り代わりと思って持って行け」
「ありがとうございますっ!」
ホークたち『暁と夕闇』には、治癒魔法が使える者はいない。だから、ポーション、それも高級ポーションは貴重なのだ。
「では、俺たちはモブル王国に向かいます」
「頼む。我々も早めに向かうようにする」
「はいっ!」
ホークたち、『暁と夕闇』は、すぐにその場から立ち去った。
第二聖騎士団一行と離れて、なんとか四日で森を抜けた。
「オットーのおかげで、早く抜けられたな」
「えへへへ」
「さて、一番近い村までは」
「俺たちの足なら半日か」
「あれ、もしかして、あれが村か?」
小さな点が彼らの視線の先にある。
「ちゃんとしたベッドで早く寝たいぜ」
「温かい飯もなっ!」
テンションのあがったメンバーたち。
足早に村に向かい、日が落ちる前には到着してしまった。
門の横には、居眠りをしている老人。衛兵の姿は見当たらない。
「かー! 暢気だなぁ」
呆れた声にも反応せず、スピースピーと寝息をたてている。
「確かに、ここは日当たりもよかったんだろうが……もう日が落ちるってのに」
「おい、じいさん、じいさんっ」
「ぐがっ」
「じいさん、起きろ」
「んがっ? ……あ? 村に入るのか……入るなら銀貨で……」
「おい、俺たちは冒険者だ」
全員がギルドタグを見せたので、老人は「なんじゃ」とぶつくさ言って、再び寝に入ろうとした。
「おい、寝るなよ」
「ちょっと話を聞きたいんだが」
老人が寝たまま手を伸ばしてくる。
「チッ」
ホークは舌打ちをうちながらも、銅貨を一枚、その手のひらに載せる。老人は片目を開けて、手のひらの銅貨を確認する。
「ケチ臭いのぉ」
ジロリと睨むホーク。老人は「おお、怖っ」と言って肩をすくめる。
「ここ最近、この村に来た奴はいるか」
「こんな辺境の村だろうと、来るヤツは来る」
「そいつは王都側じゃなくて、こっちの森側から来たヤツか」
「……そんなの聞いてどうする」
急に老人の気配が変わる。まるで歴戦の戦士のような重い空気に、『暁と夕闇』のメンバーたちは、なんとか立っている状態だ。
「ま、まて、じいさん」
「……」
「お、俺たちはイダ神殿の依頼で人探しをしてるんだ」
「イダ神殿?」
老人は不審そうにホークたちに目を向ける。
「本当だっ」
老人はしばらく無言で見ていた後、急に空気が軽くなった。
ホークたちが、はぁ、はぁと肩で息をしているのをよそに、老人は大きなあくびをする。
「じ、じいさん、何者だ」
「……」
「と、とにかく、魔獣を二匹連れた人間は通らなかったか」
「……」
ホークは一瞬悩んだ。
――しかし、あの威圧を放つ老人がただ者であるわけがない。
この老人であれば大丈夫か、と判断する。
「ここだけの話だが……その方は神の愛し子なんだ」
「!?」
老人の眠そうだった目がギンッと大きく見開く。
「……なるほどの」
「やはり、来られたのか!?」
焦るホークの目の前で、老人は胸元のポケットから100円玉を取り出す。
「なんだ、それは。銀貨にしちゃ、小さいし……随分と精巧なデザインじゃないか」
「……小さな猫を二匹連れたお嬢ちゃんなら通ったぞ」
「まさか、そいつは」
「フフン」
ホークたちを煽るように、老人は自慢げに100円玉をポケットに戻すのだった。




