第50話 魔物肉の丸焼き
屋台の並ぶ通りの入口にあった肉を焼いている屋台の前で、二人が固まって見ている。
なにせ、その店では豚っぽい生き物を丸焼きしていたのだ。私もこんなに大きな丸焼きをしているのを初めて見た。
二人とも涎垂らしてないか、と思いながら二人のそばに行く。
【お、財布が来たようだな】
屋台のお兄さんが、マーコたちに近寄る私を見て嬉しそうな声で何か言ってる。
「雅、これ、これ買って!」
「絶対、美味しいヤツだからっ!」
「え、でも、焼いているお肉だよ? それに塩分とか」
「これは大丈夫。間違いない」
「味付けしてないんだって!」
マーコが断言すると、ニーコまで真剣な顔でコクコクと凄い勢いで頷く。
私はチラリと丸焼きのほうに目を向ける。見事な飴色に焼けているそれから、香ばしい匂いが漂ってくる。
【なんだ。姉ちゃん、迷ってるんだったら、よかったら味見してみるか】
お兄さんが丸焼きに大きなナイフをいれて、薄くカットした肉を小さな木の皿に丸めて、短い串のようなものを刺して渡してくれた。
【アリガト】
ただ焼いただけのようなのだけれど、本当に香ばしい匂いがする。ただ、味付けしてないのが美味しいと思えるのか、若干不安。
マーコたちに期待の目で見つめられながら、少しフーフーと冷ましてからパクリと一口。
「!?」
あの薄さなのに歯ごたえがある。それに噛みしめるたびに肉汁がじわりとにじみ出てくる。肉の旨味だけで美味しいと感じる不思議。
「ん、美味しいわ、これ」
「やっぱり!」
「だよね!」
私の反応に、マーコたちのワクワクは止まらない。
【こいつは味付けなしで十分美味いワイルドグラスボアってヤツだ。どうだい、さっきのは半人前だ。坊主たちは一人前食ってくか】
【食う!】
【当然、食う!】
【姉ちゃんはどうする】
「雅はどうするかって」
まだ口の中で肉を味わっていた私は、いらないと手を振る。
むしろ、塊肉で買って、家で食べたいくらいだ。
【あいよっ、じゃあ、二人前で100ノルな】
「雅、二人で銀貨1枚だって」
「んっ、そ、それって結構高くない?宿屋の朝食並み……まぁ、でも、この美味しさなら、ありか」
私はリュックからお財布を出して、銀貨をお兄さんに差し出す。
【まいどっ!】
ニカッと笑うお兄さん。マーコとニーコは、私が味見で貰った肉の倍以上の量の薄切り肉を皿に載せてもらった。
【ありがとう!】
【美味しそう!】
目をキラキラさせた二人は、夢中で食べ始めた。
その様子をお兄さんが嬉しそうに見ていると、マーコたちの様子につられたのか、新しいお客さんがやってきた。
「邪魔になりそうだから、少し離れようか」
私の言葉にコクコク頷く二人。口いっぱいに頬張っている様子は、物凄く可愛い。
二人が食べきる頃には、店のほうは列ができている状態になってしまった。マーコが小皿をまとめて、屋台の裏のほうで作業をしてた少年に渡していた。
「うーん、あのお肉、塊肉で買って行きたい」
「確かに! あれ、肉だけじゃなくて、あのお兄さんの腕もある!」
「少し時間たってから、また来てみようよ」
「うん」
私たちは、後ろ髪を引かれる思いで、その場を離れ、他に美味しいものはないか、探しに行くのであった。




