第33話 宿に泊まろう(1)
その宿は二階建てで、客室は一階に三部屋だけの小さな宿屋だった。
【いらっしゃい。あら、あなた一人?】
『一人かって聞いてる』
宿屋の受付らしいところにいたのは、50代くらいの優しそうな女性。女将さんだろうか。私は足元にいたマーコとニーコを抱き上げて見せると。
【あら、かわいいねぇ】
「にゃぁ」
「みゃぁ」
『……あざといのぉ』
【その子たちは魔獣じゃないのかい?】
『魔獣かって聞いてる』
私は慌てて首を振る。
「みゃぁ」
「にゃぁ」
二匹がもぞもぞしだしたので下ろしてやると、ゴロゴロいいながら女将さんの足元に頭をすり寄っている。
――ほんとにあざとい。
【まぁ、まぁ、まぁ】
女将さんが嬉しそうな顔をしている。彼女も猫好きなのかもしれない。
【フフフ、今日はあなたしかお客さんがいないから、いいかしらね】
『マーコ、ニーコ、よくやった』
ユーコの言葉に、マーコがウィンクする。
――ウ、ウィンクした!?
私が驚いてることに気付かない女将さんは、足元の二匹の頭を撫でている。私は指先でコンコンとカウンターを叩くと、あらっ、という感じで顔をあげた。
私はリュックに入れた銀色のコインを3枚ほど取り出して見せる。
【ああ、お代は1枚足りないね】
『あと1枚』
女将さんが人差し指を立てたので、もう1枚出す。
【食事はどうするね。朝と夜で銀貨1枚だよ】
『食事代は別みたいだ。朝夕で銀貨1枚だそうだ』
もう一度1本指を立てたので、もう一枚渡す。
【はいよ。じゃあ、一番奥の部屋を使っておくれ。これが鍵になる。部屋の中に入ったら、ドアに差し込んでおくれ】
女将さんは受付から見える奥の部屋を指さし、居酒屋の靴箱に挿すような板を渡された。
『鍵だって』
どうやって使うのかわからず、そのまま頷いて奥の部屋へ向かった。
一階の一番奥の部屋でリュックをおろし、荷物の整理をする。
ここでは使えそうもない日本のお金やカードをリュックの内ポケットにしまい、ジャラジャラいれていた銀色のコイン(銀貨としておく)をお財布に入れ替えた。
私は少し硬いベッドに腰かけてユーコと話をしている。
『まいったな』
「ええ」
マーコとニーコは、村の様子を見てくると言って、小さい猫の姿のまま部屋の窓から出て行ってしまった。
「まさか、ここまで言葉が通じないとか、思ってなかったわ」
ファンタジー脳の私は、言葉ぐらいは通じるものだろうと、勝手に思っていた。
それでも、マーコとニーコ、それにユーコは言葉がわかるらしい。これぞ、チートというやつなのだろう。
『まったく、神々も不親切だの。雅が生活していくのに最低限必要だろうに』
私の代わりにユーコが怒ってくれている。
「ほんとにね。これからはマーコたちに人の姿になってもらうしかないかな」
『うむ。あの格好は目立つが、仕方あるまい』
「でも、ずっと通訳してもらうってわけにもいかないしねぇ」
どこでもユーコがついてきてくれれば、最低限の通訳は可能だろうけれど、そのうち嫌でも、一人で行動する機会もあるに違いない。
肉体年齢が39歳の時だったら、ユーコ任せにしてしまったかもしれない。
でも、今や14歳の私。学べば、それなりにできるようになるんじゃないか、という気もしてくる。
コンコン
部屋のドアがノックされた。
「はい」
【夕飯です】
ドアの外から女の子の声が聞こえた。
『夕飯だって教えてに来てくれたようだぞ』
「あ、はい!」
声に出してから、通じないのを思い出し、ドアを開ける。
目の前には目を大きく見開いた女の子が立っていた。アイボリーのシャツに少し色褪せたオレンジ色のスカートを着た女の子だ。
【夕飯です】
もう一度言ってくれたのでコクコクと頷くと、女の子はパーッと笑顔になって、ペコリと頭を下げて、そのまま戻っていった。




