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うちの猫、めっちゃ強いんですけど~愛猫たちと異世界満喫生活~  作者: 実川えむ
異世界に飛ばされる

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4/12

第4話 40目前、無職目前

「……お先に失礼します」


 会計事務所の玄関ドアを開けながら、まだ残っている社員の人達に声をかける。


「お疲れ様」

「お疲れ~」


 私が定時の17時にあがるのはいつものこと。

 返事を返してくれるのは年配の社員の人達。彼らの声に、頭を下げて事務所を出た。

 松本雅まつもとみやび、39歳。独身。

 黒縁の眼鏡に紺色のスーツ。黒いストレートの髪を下の方で一本にまとめている。女性にしては、少し背が高い(172センチ)せいもあって、ヒールのある靴ではなく、白いスニーカーを履いている。

 会計事務所の事務員として働いて5年。

 母方の祖母の友人の紹介で勤めることになったけれど、正社員ではなくアルバイト。

 前の仕事で身体を壊したこともあって、体調を見ながらの勤務ということだったのだけれど……今月いっぱいで退社することになっている。


「あら、お疲れ様」


 色んな所がキラキラしているヒラヒラしたワンピースを着た一人の女性がにこやかに、事務所の玄関前で私に声をかけてきた。

 小柄ながらに豊満な体型、男性であれば惹きつけられそうな彼女は、この会計事務所の所長の娘さんだ。私がこの事務所を辞めることになった原因。

 彼女が離婚して実家に戻ってきた。

 そのため、私がやっている仕事を彼女がやることになり、私はクビになったのだ。

 たぶん、私の後見をしてくれていた祖母の友人が亡くなったのも、理由の一つだろう。

 私の地味さと比較するせいか、彼女の華やかさが事務所の中でも際立っている。

 痩せ気味な私に対して、出るところ出ている彼女に、若手社員たちは、鼻の下を伸ばしているのを知っている。


「……失礼します」


 彼女とすれ違いざまに挨拶をすると、私は無表情のままドアを締めた。

 私は表情を変えることもなく、家に帰るために最寄り駅のほうへと向かった。



 会計事務所のあるターミナル駅から私が住む家は、電車とバスを乗り継いで一時間ほどのところにある。

 去年までは事務所近くのアパートから徒歩で通っていたのだけれど、祖父が亡くなり、祖母だけになってしまったというので、今年の春から同居することになった。

 しかしその祖母も祖父を追いかけるように、先月亡くなってしまった。

 私の両親は、私が高校を卒業して小さな工場に就職すると同時に離婚した。私が独り立ちするまで待っていたらしい。

 そして、それぞれに新しい家庭を持って、私のことは放置。そんな私を不憫に思ったのが、母方の祖父母。私は書類上、彼らの養子となったことで、今の家を相続した。


 ――ちゃんとお留守番できてるかな。


 私は電車の窓から外を見ながら、家で飼っている二匹の猫のことを思い出す。

 祖母の家では、キジトラとサバトラの姉弟きょうだい猫がいる。祖父母が大事にしていたこともあり、二匹とも、そろそろ二十歳になる。

 多少、ヨロヨロすることもあるけれど、食欲は旺盛。私が疲れて帰ると、必ず玄関まで出迎えてくれる二匹だ。

 私が頑張って働いてこれたのは、この二匹のおかげが大きかったかもしれない。


 ――それも、今月いっぱいのことだけど。


 私は斜め掛けのバッグからスマホを取り出し、駅に着くまで猫動画を見て癒されることにした。



 家のある駅に到着すると駅前の商店街で夕飯の買い物をして、バスに乗る。駅からはバスで10分、バス停からは歩いて5分ほどの古い住宅街の中に私の家はある。


 ――はぁ。次の仕事、どうしよう。


 年齢と収入、それに自分の体調のことを考えると、これ、という仕事が見つからない。

 つり革を掴みながら思わず大きなため息をつくのと同時に、降りるバス停の名前のアナウンスが流れた。

 


 人通りの少ない道を歩くと、祖母から譲り受けた古い木造平屋の一戸建てが見えてくる。そこそこ広い庭には、大きな桜の木が一本たっている。春には桜が見頃だが、今はそろそろ厚手のコートが必要になりそうな晩秋。紅葉した葉が散り始めている。

 ガラガラという引き戸の音がひびく。灯りのともっていない家の中は、寒々しく、暗い。


「ただいまぁ」


 それでも自然と言葉が出る。その声を聞いて、奥の部屋から、トトト、と追いかけっこをするように現れたのが、キジトラとサバトラの姉弟きょうだい猫。


「にゃー」

「ニャー」


 スニーカーを脱いで家にあがる私の足元をウロウロする姿に、笑みを浮かべる。


「来週誕生日だけど……この子たちがいるだけマシかもね」


 金曜日の夕方に、誰とも食事の約束もなく、猫の待つ家に帰る私。

 40目前、無職目前である。

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