第3話 パワフル八百万の神々
ヘプタを始め、各世界を管理する神々が、日本の八百万の神々に威圧されている図は、なかなかに壮観である。
『なるほどのぉ。そこの馬面が我らが慈しんでいる土地に、茶の一滴を飛ばしたと』
ギラリと睨みつけるアマテラス。
迫力のある美しい容貌と彼女の威圧に、馬面と呼ばれたペンタは涙を流す始末。
――土地の神がこんなに怖いなんて、ヘプタの世界って、なんなのっ!
そう思いながらペンタはプルプル震えている。
『そのせいで我が土地は突然の土砂降りじゃぁ』
『大きな川が決壊しそうになっとった』
『土砂崩れが起きかけたなぁ』
三人のボロボロの着物を着た小さな神たちが、ペンタの周りを飛んでいる。
『松本の家があったおかげでぇ、なんとか治まったが』
『ああ、あの家があったから、助かった』
『だがしかし』
ギョロリと一斉に八百万の神々の目が向けられる。
『松本の家はどこへ行った!』
『あの家は、代々、土地を治める力を持つ家だった』
『あの家があったから、悪いモノを鎮める力があった』
『それなのに!』
『あの家があった場所が、まるっと消えているのはなぜじゃ!』
『どでかい穴が空いてるのはなぜじゃ!』
神々の言葉に、カタカタと身体を震わせるヘプタ。地球を管理する神だからこそわかる、『松本の家』の重要さを。
「な、なんてことだ……もしや、その穴から」
『フンッ、悪霊どもなら、我らで押さえ込んだ』
『わしら全員であたれば、なんてことはない』
『それよりも、松本の家はどうなったのだ!』
ドドドーンという効果音が聞こえそうなくらい、八百万の神々が迫る。
「あ、あのぉ」
弱々しいノナの声に、ぎゅるりんと一斉に視線が向く。
「ひぃっ!」
『なんだ、小娘』
アマテラスの冷ややかな声に、ノナの目から涙が決壊しそうだ。
「は、はいっ、わ、私の世界に、家ごと落ちたものと思われますっ!」
『なにぃっ!』
八百万の神々がノナの球体へと目を向けるが、どこに何があるかなど、彼らにもわからない。
「あ、えと、この辺りに……」
ノナはそう言うと小さなスクリーンを表示する。
そこには庭付きの古い木造平屋の一軒家が写し出されている。周囲は深い森のようで、一軒家は異質な感じだ。
『家は無事だが、中の人間は』
『あの家には猫もおっただろう?』
『もうすぐ猫又になりかけてるのがおっただろう』
『こんな森の中に落とすとは!』
『こんなんじゃ、あの子たちは生きていけないぞ!』
『おいっ、あれはなんじゃ!』
『家よりデカい生き物だと!』
喧々諤々とうるさい八百万の神々をよそに、アマテラスはジッと一軒家を見つめる。
『ふむ。さすが、我が信徒の家。多少のひび割れはあるも、大丈夫のようだが……私の力は、《《ほとんど》》届かんな』
寂しそうな声に、部屋はシンッと静まりかえる。
「え、えと」
ノナがおずおずと話し出す。
ノナの世界と、ヘプタの地球のある世界は、間に一つ別の世界を挟んでいるので、力はあまり届かない。しかし、まったく届かないというわけでもない。
「ヘプタが少し協力してくれれば、この家の者たちに少しは力を分け与えられると思うの」
『ほお?』
「ヘプタの世界は魔法がないのでしょう? そんな世界の者が私の世界で生きていくのは、とっても大変だと思うのよ」
「……ノナ」
「ね?」
美少女のノナに上目遣いで頼まれて嫌な気はしないヘプタを、ジロリとアマテラスたちが睨みつける。
「わ、わかった。わかった。ペンタも少し手伝え」
「は? 俺のところからノナのところまでは遠くて……」
「手伝え?」
笑顔を張り付けて言うヘプタと、その背後に立つアマテラスの笑みに、ペンタはコクコクと頷くしかなかった。
「……お前も大変なんだな」
八百万の神々が去った後。
元々白馬なのに、燃え尽きたように白くなったペンタに言われたヘプタ。
――元はと言えば、お前のせいだろう!
そう言う気力もないほどに疲れ果てたヘプタ。
「あ、あのぉ、僕の世界のことはどうすれば」
すっかり忘れ去られていたエナの声に、そうだった、と慌てだす神々。今回の話し合いはなかなか終わらないな、と深いため息をつくヘプタなのであった。




