閑話:神殿長ゴーグリと聖女アイリス
神託は四神から下りるのが通常なのだが、今回、初めて主神からの神託が、聖女アイリスのもとに下りた。
『主神の愛し子様が、フォロンの森に降りられた』
イダ神殿で祀る『春の神イダ』を生みだした主神の、新たな愛し子の存在に、イダ神殿では歓喜の声が上がった。
『強力な魔物が多く存在するフォロンの森へ、主神の愛し子様をお救いに向かわねばならない』
神殿長ゴーグリの言葉に、愛し子をイダ神殿へとお迎えにあがるのだ、と聖騎士たちは立ち上がった。
聖騎士団では、誰がお迎えにあがるかで激しい選抜戦が行われ、上位10名すべてが、魔物討伐を主に行ってきた第二聖騎士団の者たちが勝ち残った。
神託が下りた翌々日、イダ神殿の聖騎士団の訓練場では出陣式が行われた。
第二騎士団からは副団長のアレクシス(30歳)を含め10名(女性騎士1名)。次期聖女と目されているヘルカ(19歳)、カーリ(13歳)の2名。
そして、フォロンの森に精通している冒険者パーティ、Aランクの『獅子の咆哮』、Bランク『暁と夕闇』の二組が参加することになった。
聖騎士団総団長のポローアスも名乗りを上げたが、補佐官に睨まれ、あえなく見送る立場となってしまう。目の前の者たちを内心羨ましく思いながら、神殿長、聖女アイリスとともに無表情で立っている。
遠征メンバーに向かい、神殿長ゴーグリが一段高いところから睥睨する。
現皇帝の叔父でもあり、皇帝からの信頼も篤いゴーグリは六十近いが、神職らしからぬ立派な体格と精悍さがにじみ出る顔つきで、遠征メンバー一人一人に目を向ける。
「……愛し子様には、二匹の神獣様がついておられるそうだ。しかし、フォロンの森は多くの魔物が生息する地。神獣様たちだけでは、お守りするのも厳しいかもしれん。なるべく早く保護して、我が国へとお連れするのだ」
選ばれた者たちを前に、高らかに神殿長ゴーグリが厳しい顔で宣言する。
――この方が将軍になればよかったものを。
神殿長の後ろに控えていた聖女アイリスは、微かに苦笑いを浮かべる。
帝国の中でも古い血筋の侯爵家の次女であった彼女が十五歳の頃、聖女と認められ神殿に入ることに決まった時に、ゴーグリは必ず追いかけると約束したのは、彼がまだ十歳の頃。
学園を卒業した後は、そのまま帝国騎士団に入り、未来の大将軍になると思われていたゴーグリだったが、年上の彼女の後を追うように神殿へと入ってしまった。
兄の前皇帝が泣いて引き止めたほどの逸材であったのに、彼は聖女アイリスを選んだのだ。
国民の多くが、この二人の純愛物語を知っている。
「アイリス様、お言葉をお願いいたします」
神殿長ゴーグリが、斜め後ろにいた聖女に優しく声をかける。
「皆には、厳しい道行になるかと思います。お互いに助け合い、どうか愛し子様をお連れください」
「はっ!」
柔らかいアイリスの声に、全員が頭を下げる。
真剣な顔をしている者、顰めた顔をしている者、ニヤニヤと笑みを浮かべている者。
頭を下げている彼らの中では、それぞれの思惑が渦巻いていた。




