第30話 再び、森の移動を開始
翌朝、リビングのカーテンを開けて外を見る。
相変わらず白っぽい結界は変わらない。外の様子がわかりづらいけれど、魔物の死体が落ちている様子はない。
それにホッとした私が朝食を食べていると玄関が開く音がした。
一瞬、身体が固まる。
――あれ。私、玄関の鍵、しめてなかった?
ガタンッと椅子から腰をあげると、すっかり袴姿の子供の姿に戻ったマーコとニーコが、廊下から顔を出した。
「雅~」
「おはよう~」
「え、外出てた?」
「うん」
「ちょっと運動に」
えへへ、と笑って猫のエサの箱をとって、自分たちの皿に入れている。
――シュールだ。
私はそのまま席に座り、自分の食事を平らげることに専念することにした。
『雅、おはよう』
「ん、ユーコ、おはよう」
ユーコは自分でお湯をわかすと、自分の湯呑と仏壇に置く湯呑に注いだ。仏壇用の湯呑を手に、そのままスルーと飛んで行く。
非日常なのだけれど、これが日常になりつつあることに、最近、ようやく慣れてきた気がする。(遠い目)
食事を終えた私たちは、ユーコが家を収納すると、さっそく移動を再開することにした。
今日は少し曇り空。肌寒く感じるので、某ファストファッションの店で買った薄手のダウンジャケットを羽織る。ちょっとビッグサイズなのはご愛敬。背中にはリュックを忘れない。
マーコが『マッピング』の地図を、私たちの目の前に表示する。
「魔物たちはあちこちに点在はしているけど、今は少し離れてるね」
「マーコ、このまま、東に向かう感じだよね」
「そうよ。ニーコが先行して様子を見にいってくれる? 私が雅を乗せて走るわ」
「わかった」
二人の会話のスピードについていけず、私はうんうん頷くだけ。気が付けば、大きな猫になったマーコが伏せて、私に乗るように促していた。
――お手やわらかにお願いしますよ。
私がゆっくりとマーコの背に乗ると、彼女の毛をしっかりつかむ。
「にゃう~」
『いくわよ~、だって』
「は、は~いっ!?」
私が返事を言い切る前に、マーコは猛ダッシュで走り始めた。
――速い、速い、速いっ!
強い向かい風に顔をしかめながら、必死にマーコの背中にしがみつく。
周囲の風景を見る余裕があればいいのだけれど、この強風で目を開ける気はない。
走り出して三十分程して、急にマーコのスピードが落ちた。
「ん、どうしたの」
たった三十分で、すでにお疲れ気味な私だが、それでもまだまだいけると思う。
「みゃう」
マーコが足を止めて周囲を窺っている。
『雅、何者かが私たちのほうへと向かっているようだ』
「えっ」
『魔物ではない。人族だ』
「……?」
「みゃ~う、みゃ、みゃ」
『まだ、距離はあるようだが、大人数なのか』
初めての異世界人との遭遇か。
魔物ではないとはいえ、見知らぬ人と出会うのは少しばかり不安ではある。それに、私のファンタジー脳が囁く。
――こんな森の中を大人数なんて、盗賊とかだったりして。
『……無理に会うこともあるまい。相手が、どんなヤツかもわからんしな』
「みゃ~」
『相手は北東のほうからこちらに向かっているのか』
「にゃ」
『そうだな。やつらを避けて、東へ行こう。ニーコは大丈夫か?』
「みゃ~あ、みゃー!」
『ニーコが下手をうつなら、置いていくだけであろう』
「フンッ」
――そんな可哀想なこと言わないで~!
ユーコの言葉に、マーコは鼻息で返事を、私は顔を引きつらせた。




