第28話 我が家が一番、安心する
日が暮れる少し前に、ニーコが少し開けた場所を見つけてきた。しかし、ユーコが家を出すのには少し狭いということで、マーコとニーコが定番の風の魔法で周辺の木々を伐採しまくる。
その間、マーコに乗ってて足がガクガクになった私は地面にしゃがみこんでいた。
正直、しがみついていた時間が長くて、かなり疲れた。これ、39歳の体力だったら、あっという間に振り落とされてた気がする。
『そろそろよいかの?』
「みゃ~」
「みゃう~」
二匹の返事と同時に、デデンッと我が家が現れた。
『それと結界も張らねばな』
音もなく、薄く青みがかった透明な膜が丸く家の周りを包み込むのを見て、ホッとする。
よっこいしょと立ち上がり、門扉をあける。結界のおかげもあってか、中の空気は違う気がする。
「やっぱり家が一番だわ~」
「みゃ~」
「にゃう~」
私の後からついてきたのは小さな猫の姿に戻ったマーコとニーコ。
「あれ、いつの間に」
『今日はこいつらも頑張ったからな』
「なんで人の姿じゃないの?」
『これが一番楽なんだと』
「そっか」
見慣れた猫の姿の二匹を連れて、玄関を開けて家の中に入る。
薄暗い廊下を進み、リビングまで行くとリュックを床に置いて、ソファにぐだーっと座り込む。
「あ゛ー、疲れたー」
「みゃぁ」
「にゃにゃ」
『お疲れである』
あまりに疲れて、返事もできない。
――お腹も空いてるはずなんだけど。
身体を動かすのも億劫で、料理をする気力もわかない。ぼーっとしながら、どうしたものか、と思っていると。
『雅、茶である』
「へ?」
なんと、ユーコが小さなお盆に湯呑をのせて持ってきてくれた。
「うわ、ありがとう……あちっ」
『いれたてである。気を付けて飲むのだぞ?』
「うん、ありがと」
フーフーと冷ましながらお茶を飲む。人に淹れて貰ったのは、いつぶりだろう。ユーコは人ではないけれど。
職場でもお茶を淹れるのを頼まれることが多かっただけに、余計にありがたく感じる。
そういえば、私が職場に行かなくなって、お茶くみは所長の娘さんがやってるのだろうか。もう戻ることはないから、どうでもいいといえば、どうでもいいけれど。
「あー、沁みるー」
「にゃぁ~」
「にゃにゃぁ」
『お前らは熱くて飲めまい』
呆れたようなユーコの声を、マーコとニーコはスルー。
「……どれくらい来たのかなぁ」
ポソリと呟く。
自分の足での移動距離が少なかっただけに、猛スピードで走るマーコの背に乗り、かなり進んだ気にはなっている。
「みゃっ」
私の隣で横座りしていたマーコの目の前に、大きな地図が表示される。
「へー、随分進んだんだね」
マーコたちが事前にマッピングしていた範囲からは、すでに抜け出していた。ぴょこりと一本伸びた線の先に、赤い家のマークがある。これが、我が家のことだろう。
周囲の木々の感じや、荒れた森の様子からも、人が入ってきている感じではない。まだまだ人の住んでいるところからは遠いのだろう。
そして、家からは少し距離はあるものの、マッピングされている範囲の中を赤い丸い点があちこちにあって、ゆっくり動いている。
「魔物も多いね」
『家にいれば大丈夫さ』
「そうだね」
ユーコの結界が強いのは猪で証明済みだ。
画面を消すと、マーコはそのまま丸くなってしまった。
――お疲れ、お疲れ。
二匹の背中を撫でながら、心の中で慰労の言葉をかける。
『飯はどうする』
お茶を飲んだせいか、少し気力が復活した気がする。それでも、一人分の料理となると億劫だ。
「ん、レトルトのカレーでも食べるかな」
『なんであれ、腹にいれといたほうがいい』
「うん」
私はマーコとニーコを一撫でした後、夕飯の準備をするべく立ち上がった。




