閑話:四神の思い(2)
西のウヌオプカ聖王国、『秋の神ニギノ』を祀るニギノ神殿では、聖女の代替わりを祝う、盛大な宴が催されていた。
「わっはっは、セシリー様、おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
貴族たちが赤ら顔でワインを掲げながら、乾杯を繰り返す。
彼らは新たに聖女となったセシリーの養父、アークライト公爵家の派閥の者たちだ。元は平民だったセシリーを、聖女にまで押し上げたのは彼らの力が大きかった。
――フン、卑しい顔。
内心、周囲の大人たちを見下しているセシリー。顔には美しい笑みを浮かべている。
――ま、こいつらも私の駒でしかないけど。
セシリーの最終的な目標は、王太子との婚約。婚約者候補はいるものの、まだ決定されていない今こそ、公爵令嬢であり、聖女でもある、セシリーが一歩抜きんでているのだ。
この祝いの席にも国王の代理として来る予定であったのに、いまだにその姿はない。
セシリーは王太子が現れるのを今か今かと待ち続けていた。
時同じくして、ウヌオプカ聖王国の東の外れの修道院。
薄暗い聖堂の中、一人祈りを捧げている女性がいた。先代の聖女、クロイ・ヘイワード伯爵令嬢。独身のまま、すでに三十路に入り、このまま聖女として神殿に身を捧げると思っていたところで、突然の交代劇。
聖女として認められるのは、認定式での『秋の神ニギノ』からの神託のみ。
すでに聖女としてクロイがいる現在、認定式の必要はなかったにも関わらず、アークライト公爵家のゴリ押しで行われ、セシリーが聖女として認められた。
そうなると先代聖女はニギノ神殿には必要はない。
『まぁ、アレらは我を信じておらんからな』
「ニギノ様」
悲し気にニギノ神の石像を見上げる聖女クロイに、ニギノは優しく諭す。
『あんなのにノナ様の神託を伝える必要はない』
「しかし、主神様のお気にかけているお方をお助けしないと……」
『イダのところが動いている。下手にアレらが動いた方が、邪魔であろう』
「……ニギノ様、どうぞ、かの方をお守りください」
『フフフ、どうも、主神様だけではなく他の神々も見守っているようだから、きっと大丈夫さ(まぁ、私も気にかけるつもりだけど)』
「そうなのですね」
ホッとため息をつく聖女クロイを見て、ニギノはクスリと笑う。
――我も、こちらに引っ越すか。
王都のほうに目を向け、口をへの字にするニギノであった。
* * * * *
北のホゴート王国、『冬の神ノスカ』を祀るノスカ神殿。ここも、西のウヌオプカ聖王国のニギノ神殿同様、腐敗していた。
こちらは神殿長の妹の孫、アビゲイル・ハモンド侯爵令嬢が聖女の称号を持っていた。
当然、本当の聖女ではないから、神託など聞こえない。
『エルマー、今日のご飯は美味かったか?』
「うん。でも、全然足りない」
ノスカと並んで話をしているのは、神官見習いのエルマー・シェフィールド、10歳。貧乏男爵家の三男ということで、幼いうちから神殿に入れられてしまった。
今エルマーは神殿の裏手の庭掃除を一人でさせられているところだ。
エルマーは隣に立っている男が『冬の神ノスカ』だとは気付いていない。ノスカ自身も名乗っていないからだ。
『そうか。ほら、これをやろう』
「わ、モンモンの実だ!」
ノスカから渡された実を手にして、大喜びのエルマー。
「ねぇ、女の人の声が聞こえたんだけど」
『そうか?』
「保護してって。誰かに言ったほうがいいかな」
『大丈夫だ。私が聞いたからな』
「そっか」
――エルマーが聖人だとわかったら、消されるか、いいように使われるだけだ。
幼い聖人が、美味しそうに実を食べている姿を見つめ、微笑むノスカ。
――ノナ様のお気にかけているお方よりも、エルマーのほうが心配だ。
大きくため息をつくノスカであった。




