第12話 マーコに鼻チューする
叫んだところで、スマホの画面に新たなメッセージは送られてこない。
私は大きくため息をつくと、パジャマから着替えて、マーコとニーコを探した。
マーコとニーコは、仏壇の前で二匹並んで箱座っていた。
二匹は姉弟猫だけれど、姉のほうのキジトラのマーコのほうが少し丸くて、サバトラのニーコのほうが少しスリムで身体が大きい。二匹とも長い尻尾がスルンと動く。
「マーコ、ニーコ」
私が声をかけると、二匹ともタイミングぴったりに顔を向けた。
「あんたたちに、年齢をあげろって、ノナって神様が言うんだけど……って、私の会話、わかってるのかなぁ」
普通に「ごはん、いる?」「いいこだねぇ」なんて、猫として話しかけることはあっても、こんな風に話しかけることはないから、ちゃんと通じているのか自信がない。
しかし、二匹ともがジーッとこっちを見ている。
怖くないと言ったら嘘になる。
年齢を与えるっていうことが想像できないからだと思う。
しかし、私を生かすためのアドバイスなのだ。死に直結するようなことではないはずだ。
「はぁ……とりあえず、いくつずつ鼻チューすればいいかなぁ」
漠然と、十回くらいだったらいいだろうか、と考える。
これで単純に若返るんだったら、29歳。ちょっと微妙な年齢ではあるけど、三十代に入って身体を壊したことを考えると、今よりは健康になるかもしれない。
とりあえず、マーコとニーコ、それぞれに五回ずつ、トータルで十回やってみよう。
「さぁて、まずはマーコ~、鼻チューしようかー」
私は畳に座ると、ぼってりした身体のマーコを両手で持ち上げて、顔を見合わせる。鶯色にまん丸な黒い瞳孔をしたマーコの茶色い鼻に鼻チューする。
「一回~、二回~、三回~」
マーコは嫌がりもせずに、大人しく鼻チューをさせてくれる。
「四回~、五回~!?」
最後の五回目を数えたとたん、マーコの身体が輝き出した。
「えっ」
『止めないでっ!』
「!?」
甲高い女の子の声が頭の中に響いた。
『止めたら、それで終わり!』
「わ、わかったっ、ろ、六回~、七回~」
女の子の厳しい声に私は素直に従って、鼻チューを続ける。
その鼻チューするたびにマーコの身体の輝きが増していく。なんとか十回まで数え切った頃には、目の前のマーコの顔も見えなくなった。
目標の回数になったので止めたけれど、今度は女の子の声に叱られなかった。
眩い光が徐々に消えていくと……私は神社の巫女さんのような赤い袴を穿いた目を閉じた小さな女の子の脇に両手を入れて持ち上げていた。年のころは5,6歳に見える。
「ね、猫耳……」
茶髪に所々黒いメッシュが入っているショートボブに猫耳がついている。顔立ちは日本人っぽい。大人になったら美人になりそう。
「……もしかしてマーコ?」
私が声をかけると、女の子はゆっくりと目を開ける。
マーコとおんなじ綺麗な鶯色の目だ。
「そう、マーコよ。雅とやっと話せるね」
マーコと名乗った女の子は、ニッと笑った。




