閑話:猫又なりたてマーコとニーコ
雅が、押入れの中の防災リュックの確認をしている時。
マーコとニーコはソファで丸くなりながら……異世界の神、ノナと脳内でおしゃべりをしていた。
ノナはマーコとニーコに、異世界に転移したことや、周りには魔物がいること、魔法というものがあるということを説明していたのだ。
『だからね、貴方達に色々お任せするしかないのよ』
――でもさぁ、魔物とか言われたってさぁ。
――そうよね。魔物って大きくて怖いんじゃないの?
――だよねぇ。僕たち、猫又になりたてだし。
――そうよぉ。なりたてだから、ただの猫とかわんないしぃ。
ぺろぺろと手を舐めながら聞いているマーコ、ぷすぅと鼻息を吐くニーコ。
『そ、そうなんだけど。大丈夫。そこはなんとかしてあげるから』
――なんとかってぇ?
――なんとかってぇ?
二匹はチロリと上を向く。ノナがいるわけではないのに、そこを見つめる二匹。
『ニホンの神々から聞きました。色んな「ちーと」なる力を貴方たちに授けます』
――「ちーと」ってなーにー?
『「ちーと」は魔物を討伐できる様々な魔法や攻撃力、たくさん収納できる力などの特別な力ということです』
――雅じゃなくてー?
――そうよ。そういうのは雅にあげなきゃ意味ないじゃーん。
雅がガサガサ、ゴソゴソと防災リュックの中身を確認している音のほうへと、耳を向ける二匹。
雅は時々この家に来ては頭を撫でたり、抱き上げてくれたりした。だから二匹とも雅が大好きだ。彼女の祖父が亡くなった後、祖母の面倒を見るために同居するようになったのは嬉しかった。
嫌なのは、動物病院に連れて行かれる時くらいだ。
『残念ながら、雅さんの身体には受け入れるだけの余裕がないんですよ。それに比べて、貴方たちは、神獣に近い存在。だからこそ「ちーと」を授けられるのです』
――そういうものー?
『そういうものなのですよ。ニーコ』
――そういうものなのねぇ。
『ええ、そうです。マーコ』
二匹は互いの顔を見て、ふすぅ、と鼻息を吐く。
『ただ、やはり、まだ貴方たちはネコマタになりたて。もう少し齢を重ねる必要がある』
――だよねぇ。
――そうだと思ったわぁ。
『なので、後で、雅さんから齢を譲り受けましょう』
――は?
――そんなことして、雅は大丈夫なのっ!?
すっくと立ち上がる二匹。目が座り、モヤモヤと黒い靄が溢れだしている。
『だ、大丈夫です』
――あ゛?
――あ゛?
さすが姉弟、反応がまったく同じ。
『だ、大丈夫ですっ!』
ノナが言い切ったところで、二匹は顔を見合わせ、パチリと目を合わせる。
――あの子を守るには仕方がないわね。
――少しでも力になるなら仕方がない。
――でも、本当に大丈夫なのよね?
『し、信じてください~!』
マーコとニーコの頭の中で、ノナの悲痛な声が響く。
『マーコ、ニーコ』
突然、ノナとは違う、落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
――今度はだあれ?
――また、変なこと言う?
『私は天照大御神、日本の神だ』
――私、知ってる! おばあちゃんが、いつも祈ってた!
――僕も聞いたことある! おじいちゃんが、お札を嬉しそうに持ってた!
『お前たちの主は、いつもよい気を送ってくれていた。私だけではなく、多くの日本の神々は忘れていない』
――おばあちゃん。
――おじいちゃん。
ぐすぐすと鼻を鳴らし、お互いに舐め合う二匹。
『その孫である雅を守るため、お前たちの力を貸して欲しい。こちらに戻してやれないのが、《《本当に》》悔しい。私の声もこれが最後。もう送れないだろう。だから、お前たちから異世界のこと等を伝えてやってほしいのだ』
――伝えられるの?
――話ができるようになるなら、嬉しいわ!
『そのためにも、雅から齢を譲り受けておくれ……ああ、もう時間がない。日本の神々は、お前たちの無事を祈っていると……』
ふつりと脳内の回路のようなものが消えたのを感じ取った二匹。妙に疲れた二匹は再びソファで丸くなる。
――でもさぁ。
ぺろりぺろりと前足を舐めてから、顔を洗うマーコ。
――どうやって譲り受ければいいのかしらね。
――そのやり方、聞いてないけどね。
――まぁ、なんとかなるかぁ。
「はぁ」
雅の深いため息が聞こえた二匹は、耳をピクピクと動かすのであった。




