閑話:ワットモア侯爵家の侍従たち(2)
ブレンドンの呟きに、ビクリとするマンネス。
「え、あの中に入るのですか?」
「入らなきゃ、接触もできまい」
「でも、聖騎士たちが」
「女性が商品を見ている時までへばりつくなどしないだろ」
そう言われれば、確かに侯爵も夫人の買い物についていく時は、ある程度離れて様子を見ていて、好きなように買わせていた。
しかし、護衛だからといって、距離を置くだろうか? と首を傾げるマンネス。
「でも、中にいるわけで」
「私たちも客として入る分には、構わんだろ」
「……えぇぇ」
どう見ても、あのように可愛らしい店に入るようなタイプではないブレンドン。マンネス自身もそうなのだが、ブレンドンは気にせずに店のほうへと向かって行く。
――無理だと思うんだけど。
そうは思いながらも、先輩の後を追いかける。
ブレンドンは深呼吸をしてから、ドアを開けて中に入って行き、その後を恐る恐るついていくマンネス。
「あ、あれ」
「あら、いらっしゃいませ~」
店主の女性が朗らかに声をかけてくる。
「色々、ご用意してますので、ごゆっくりご覧ください」
ニコニコと笑みを浮かべながら、女性は棚に飾ってあるアクセサリー類を整えていたが、ブレンドンは「チッ」と舌打ちをしたかと思ったら、すぐさま店から駆け出していく。
「え?」
「え?」
店主もマンネスも驚きの声をあげるが、すぐさま動いたのはマンネス。
「も、申し訳ないっ」
女性に声をかけて、慌ててブレンドンの後を追いかけるために店を飛び出す。ギリギリ脇道に駆け込んだブレンドンの後姿に気付き、急いで追いかけた。
「クソッ、気付かれてたか」
石壁を蹴りつけ、文句を言うブレンドン。
それで諦めて、侯爵に報告に行けばいいものを、ブレンドンは街の中を聖騎士たちを探しに走り回る。
汗だくになった頃、聖騎士たちの姿を見たと話す女性たちの声に、ぐるりと顔を向けたブレンドンは、すぐさま、その女性にどこで見たのかと、問いただす。
「え、あ、ぼ、冒険者ギルドの入口のところに」
「なんだって、あんな場所に」
「ブ、ブレンドン先輩」
「行くぞっ」
「す、すみません」
追いついたところで走り出すブレンドンに、女性たちにペコペコと頭を下げるマンネスはすでに泣きそうだ。
マンネスがなんとか追いついた時に、ちょうど冒険者ギルドから女の子と双子が一緒に出てきて、聖騎士の元へと駆け寄って行くのが見えた。
――あ、あれが『愛し子』様なのか。
思っていたよりも小柄で可愛らしい様子に、鼻息荒いブレンドンを見て、これは無理じゃないかな、と思ってしまう。
「お前は正門へ行け」
彼らが移動を始めたのを見たブレンドンは、マンネスに言い放つ。
「へ?」
「追いかけるのは私だけでいい。お前は正門で捕まえるんだ。家はあっちにあるんだから、戻るなら正門だろ」
「いや、でも、私では」
「とにかく、頼んだぞ」
――だから無理ですって。
心の中で反論だけして、ため息をついたマンネスは、仕方なく正門に向かった。
ブレンドンが正門にやってきたのは、それから二時間近く経ってから。
「おい、マンネス」
「遅いですよぉ」
「こっちに『愛し子』様は来なかったか」
「え、ずっと待ってたけど、聖騎士は誰一人通りませんでしたよ」
「くそっ!」
「追いかけてたんじゃないんですか」
「北門を出たのは、見たんだ。しかし、私が北門を出た時には姿を見失ってな」
悔しそうに言うブレンドンだが、マンネスのほうは呆れ顔だ。
「北門から出てるんだったら、こっちに来るわけないじゃないですか(二時間、無駄にしたな……)」
「ああ、旦那様になんと報告すれば」
頭を抱えるブレンドン。
「とりあえず、報告しに戻りましょう。さすがに奥様のお買い物は終わってるでしょうし。そうだ。明日にでもアクセサリーの店にも行って、『愛し子』様のことを聞いてみればいいじゃないですか」
「そうだった! あの店で何を買われたのか、聞きに行くぞっ」
「えぇぇぇ、明日でもいいんじゃないですか」
「一つでも報告できる内容があったほうがいいだろうっ」
走り出すブレンドンに、大きなため息をついたマンネスだったが、それでも先輩の後を追いかけ始めたのだった。




