閑話:ワットモア侯爵家の侍従たち(1)
ワットモア侯爵家の侍従、マンネスは、深い、深ーいため息をついた。
――旦那様の命令とはいえ、私たちには無理がありますよ。
マンネスは、先輩の侍従であるブレンドンとともに平民街の薄暗い小道から、とあるアクセサリー屋の様子を伺っていた。
ワットモア侯爵家の侍従であるマンネスとブレンドンは、ワットモア侯爵と夫人とともに、『マカーリオ宝飾店』にやってきていた。
普段であれば、宝飾店のほうを屋敷へと呼びつける侯爵だったが、今日はたまたま、夫人の「新しく出来たというカフェに行きたい」という我儘に付き合うはめになり、その途中、『マカーリオ宝飾店』へと立ち寄ることになったのだ。
それに付き従っていたのがマンネスとブレンドン。
「ん?」
夫人がアクセサリーに夢中になって店員と話している時に、侯爵が窓の外に目を向けた。
完全に夫人の尻に敷かれているワットモア侯爵だが、彼の『愛し子』に対する嗅覚は鋭かった。
「もしや、あれは!」
カッと目を見開いた侯爵が、すぐにそばに仕えていたマンネスたちのほうへと鋭い視線を向ける。
それに反応して、ブレンドンがササッと侯爵の元へ行く。
――ブレンドン先輩、早っ。
マンネスが表情を押さえながら二人の様子を窺っていると、まもなくブレンドンが戻ってきた。
「出るぞ」
「え」
何の説明もなく、店から出て行こうとするブレンドンの後をついていく。
今回の外出には、マンネスたち以外にも護衛がついているから大丈夫なのかもしれないけれど、とマンネスは心配に思いつつ先輩の言葉には逆らえない。
「ブレンドン先輩」
「あれの後を追う」
ブレンドンの視線の先には聖騎士が二人歩いている。
「どういうことです」
声を押さえながらブレンドンに問いただす。
「旦那様が言うには、『創造神の愛し子』を護衛している聖騎士だろうってさ」
「護衛ですか?」
「ああ。ほら、あれ、前歩いてるのが、『愛し子』じゃないか」
「え」
ブレンドンに言われて、マンネスは聖騎士の先を歩く少女の姿に気付く。
――うーん、よく見えないな。
大柄な聖騎士たちが邪魔で、『愛し子』の姿が見えない。
「接触できればいいんだが、あいつらがいると無理か」
「接触って」
「旦那様が、『愛し子』との面会を望んでいるんだ。ずっと、神殿や聖騎士たちに邪魔をされていたんだが、まさか、街の中で姿が見られるとはな」
「でも、今だって聖騎士がついてるんじゃ」
「それでも、どっかで隙ができるだろ」
マンネスたちは人ごみに紛れながら、なんとか聖騎士たちの後をつけていく。
「……平民街?」
いぶかしげに呟くブレンドン。
結局、声をかける暇もなく、可愛らしい看板に不釣り合いな聖騎士たちが一軒のアクセサリー屋に入っていった。
「……なんだって、こんな小さな店に」
ブレンドンはぶつぶつ言いながら、建物に隠れながらしばらく様子を窺っている。
しかし、なかなか出てこない。
――聖騎士たちがいる間は、私たちじゃ接触すること自体、無理だと思うんだけど。
マンネスが深いため息をつきながら、心の中でぼやいていると。
「……中に入るか」
ブレンドンはボソリと低い声で呟いた。




