第85話 帝都散策 ー神殿ー(5)
私はユーコが出してくれたモリオンのビーズを受け取る。
大きさはブレスレットに使っている粒の三倍くらいだろうか。ちょっと粒が大きいので、女性の手首のブレスレットには少しごつい感じになる感じの物だ。
神殿長たちは驚きで固まり、護衛のルーカスさんたちは目を輝かせている。
「……ユーコ、ありがとう」
私が手を差し出せば、その上にコロリと落とすユーコ。
「そ、それはっ!」
ユーコのことをどう説明するべきか考えているところで、眼鏡をかけたままのラガットさんが、私の手のひらの上のモリオンに大きな声をあげた。
ルーカスさんの放った『ザシキワラシ』という言葉よりも、モリオンのほうが気になるようだ。
「……ラガット。これは」
「はいっ、と、とんでもない石です。あの一粒で、おそらく、このブレスレット一本分の『浄化』に相当するかと……」
「なんてことだ……」
思わず顔が引きつる。なんてことだ、はこっちのセリフだ。
そんな物を持っているとか、ヤバすぎる。私はすぐにモリオンをユーコに戻す。
「えぇぇぇぇ」
「消えた……」
ラガットさんと神殿長の残念そうな声があがったけれど、二人の視線が怖すぎたから、片付けたのは正解だったと思う。
使うなら、自分たち用に使うしかないかもしれない。
「とりあえず、普通に売れるものではないことはわかりました」
「まさか、宝飾店などに卸すおつもりでしたか」
「いえ、マーコが売るのは勧めなかったから、これは売りません」
ルーカスさんに勧められたお店に、違う素材の物を卸したという話をすると、ルーカスさんへと鋭い視線を向ける神殿長たち。
「あ、はい。一応、マーコ様たちが判断された物を卸されておりますので、大丈夫かと思います」
「マーコ様」
「ん、大丈夫、大丈夫。ちょっとラッキーとか、ちょっと恋愛運があがる、とか、その程度。『浄化』の能力のある物はなかったし」
マーコの言葉に、そうですか、と言いながら、納得していなそうな神殿長。
――このままじゃ、私のブレスレットって、普通に売れそうもない感じだなぁ。
そもそも趣味で作っていた物だ。あちらでも、特別、売り物にしてたわけではなかったから、こちらであれば売れたらいいなぁ、くらいに思った。今の感じでは簡単にはダメそうかもしれない。
ちょっとでも『売れそうかも』と考えてしまって、期待してしまっただけに、ガッカリ感が否めない。
こちらの素材で作ったブレスレットでも同じなのか、気になるところだけれど。
「んんっ」
神殿長が咳払いをしたので、目を向ける。
「愛し子様、こちらのブレスレットですが、よろしければ、私どものほうで購入させていただいてもよろしいでしょうか」
「え」
「この三本とも」
「いいんですか」
「いえ、むしろ、こちらからお願いします。ラガット、いくらぐらいが妥当か」
神殿長の言葉にすぐに反応したラガットさん。サラサラサラと紙に値段を書いて神殿長に差し出した。
「ふむ」
そのまま、スッと紙を差し出された紙を受け取り、金額を確認する。
メリーアンさんのところに卸したブレスレットは、値段は一本、300ノルだったのに、このモリオンのブレスレット一本が300万ノル。残り二本はそれぞれ200万ノル。
――は? 700万ノル!?
私は目を何度も擦って見るが、桁は変わらない。
「……桁、間違ってません?」
「あ、足りませんでしたか! 申し訳ございませんっ!」
「いやいやいや、ラガットさん、違います! ちょっと、え?」
「ふむ、妥当だろ」
「そうだ。これでいいと思うぞ」
混乱している私をよそに、紙を覗き込んできたマーコとニーコが認めてしまった。
「いいの!?」
「(貰っとけ。金のあるところから貰って、しっかり使えばよかろう)」
こそりとマーコに耳打ちされて、そういうもの!? とアワアワしてしまう私であった。




