第83話 帝都散策 ー神殿ー (3)
神殿長の執務室は、かなり落ち着いた雰囲気だった。
ダークブラウンの立派な執務机、壁際はたくさんの書物が並んだ本棚。窓際のカーテンも重厚な茶色いカーテン。
完全に仕事部屋ということなのだろう。
部屋の中には二つほど机があって、神殿長の他にも、事務方らしき人が机に向かっている人がいた。
――金ぴかではないのか。
単純に、小説に出てきそうな『神殿長』のイメージで金満家を想像してしまったけれど、この神殿長の部屋は違った。
接客をするためのソファとテーブルも、長年使われている感じだ。そのソファに、マーコ、私、ニーコの順に座った。飴色に光ったローテーブルを挟んだ向かい側には、相変わらず無表情の神殿長が座っている。
事務方の若い男性が、私たちの前にお茶の入ったティーカップをおくと、そのまま自分の机の席に戻っていく。
「ランドルフから、急ぎということで連絡がきておりますが」
そして、チラリと私たちの背後に立っているランドルフさんとルーカスさんへと視線を向ける。
「あ、はい。あの、私が作ったアクセサリーのことでご相談をしたくて……」
「愛し子様が作ったアクセサリー……」
眉間に皺を寄せる神殿長。
ここでそのまま見せていいものか、少し迷った。しかし、神殿長の上を飛んでいるユーコが『いけ』と言わんばかりに親指をたてたので、腹をくくった。
「こ、これなんですけど」
私は自分のバッグに入っていたブレスレットを三本取り出す。
一本は小さめな黒い天然石。マーコが強い『浄化』の力があると言って、神殿に買い取ってもらえと言ったモノだ。
他にもう一本はピンクトルマリンと水晶の組み合わせ、最後の一本は翡翠。どれも、あちらでアクセサリー作りの素材として、普段から使っていた天然石だ。
それをテーブルの上に並べる。
初めて神殿長が驚きの表情を浮かべた。
「鑑定できる者を呼んだほうがいいぞ」
「雅の作った物だ。それも、《《雅の世界の天然石》》だからな」
マーコとニーコの言葉に、ハッとする神殿長。
「少々、お待ちください。ロン、ラガットを呼んできなさい」
神殿長に名前を呼ばれた事務方の一人が、慌てて部屋から出ていく。残っているもう一人の人は興味津々の顔で、自分の席からこちらを見ている。
「触ってみても?」
恐る恐るといった感じで、神殿長が聞いてくる。
「どうぞ」
「失礼します……」
神殿長はハンカチを取り出して、モリオンのブレスレットに手を伸ばす。もしかして『浄化』の効果がわかったりするんだろうか?
――でも、そんなに丁寧に扱う?!
自分としては、普段使いのブレスレットと思っていただけに、そこまでの扱いをされると、内心アワアワしてしまう。しかし、マーコとニーコは当然という顔をしている。
そんな中、普段無表情の神殿長が、少し興奮気味にブレスレットを見ている気がする。
ランドルフさんたちの反応も気になって、チラリと後ろを振り向くと、二人とも目をギラギラさせながら、ブレスレットに釘付けになっている。私の視線にも気付かない。
――そ、そこまで?
少し呆れ気味に様子を見ていると、執務室にドアのコンコンコンというノックの音が響いた。




