それでも朝は来る
朝は、選ばせてくれない。
立ち止まっていても、
迷っていても、
等しく光を押しつけてくる。
二人が並んで見ていた空は、
いつの間にか「暁」ではなく
ただの朝になっていた。
雲の端が白く光って、
鳥の声が一つ、また一つと増えていく。
彼女はそれを、
少しだけ寂しいと思ってしまった。
この時間が好きだったわけじゃない。
ただ、終わってほしくなかっただけ。
「……行こ」
彼女の方から、そう言った。
声は思ったよりも、ちゃんと前を向いていた。
相手は驚いたように一瞬だけ目を瞬かせて、
それから静かに頷く。
「うん」
歩き出す足音が重なる。
昨夜とは違う、
ちゃんと現実に属するリズム。
道端の草に残った露が、
朝日を反射してきらきらしていた。
綺麗だと思う。
でも同時に、
この光が全部を照らしてしまうのが怖い。
「ね」
彼女が言葉を探すように間を置く。
「もしさ、
また夜みたいな時間が来たら……」
言いかけて、止める。
それは約束になってしまうから。
相手は続きを待たず、
でも話を切り上げることもせずに言った。
「来るよ。
夜は、ちゃんと戻ってくる」
断言でも、慰めでもない。
事実をそのまま置いたみたいな言い方。
それが、不思議と心に残る。
「逃げても、立ち止まっても、
朝は来るけどさ」
少しだけ笑って、続ける。
「夜も同じだよ」
彼女はその言葉を、
胸の奥で何度も転がした。
逃げ場じゃなくて、
循環。
それなら、
無理に強くならなくてもいい気がした。
角を曲がると、道は分かれる。
ここから先は、それぞれの朝。
「じゃあ」
短い別れの言葉。
重くもなく、軽すぎもしない。
彼女は一歩進んでから、振り返る。
相手はまだそこにいて、
朝の中で少しだけ夜の影を残していた。
「……ありがとう」
何に対してか、
自分でもはっきりしないまま。
相手は手を振るでもなく、
ただ穏やかに笑った。
「生きてたら、また会うでしょ」
それは約束じゃない。
でも、希望だった。
彼女はもう振り返らずに歩く。
朝は相変わらず眩しくて、
得意にはなれそうにない。
それでも足は止まらなかった。
夜を知ったまま、
朝の中を歩いていく。
それが今の彼女にできる、
精一杯だった。




