王都からの使者
村に、見慣れない馬車が入ってきた。
黒塗りの車体。
紋章入りの旗。
護衛の騎士。
どう見ても、
ただ者じゃない。
村人たちは遠巻きに見る。
「税の徴収か?」
「誰か問題起こした?」
不安が広がる中、
馬車はまっすぐ診療所の前で止まった。
嫌な予感しかしない。
彼女は外に出る。
すると、
整った服の男性が降りてきた。
役人らしい。
無駄のない動き。
「この村で医療行為を行う者は、
あなたで間違いないか」
丁寧だが、
確認する口調。
「…そうです」
少し警戒して答える。
男性は一枚の書状を見せる。
王都の紋章。
「王都医療院より通達です」
空気が変わる。
村人がざわつく。
「あなたの医療知識により、
感染症の被害が抑えられたと報告が上がっている」
報告?
誰が?
ちらりと見ると、
例の薬師が目を逸らした。
どうやら彼らしい。
「王都医療院は、
あなたを招聘したいと考えている」
招聘。
つまり、王都に来いということ。
頭が一瞬、真っ白になる。
王都。
この世界の医療の中心。
設備も人材も、
ここよりずっと上。
でも同時に――
権力と常識の塊でもある。
「断ることも、できますか」
思わず聞く。
役人は少し驚く。
普通は喜ぶ話だから。
「可能ではあります。
ただし…」
言葉を濁す。
「あなたの知識は、
多くの命を救える」
それは事実だった。
ここだけじゃない。
もっと広く役立つ。
分かっている。
でも。
診療所を見る。
村人を見る。
子どもたちを見る。
ここで築いたもの。
彼女はまだ、
決められなかった。
「三日、ください」
役人は頷く。
「待ちましょう」
馬車が去る。
残された村に、
静けさが戻る。
人生の分岐点は、
いつも突然だ。
看護師として
命を救う道。
どこで救うかの選択。
彼女は空を見上げる。
この世界でも、
選ぶのは自分だ。




