眠れない星の下で
部屋の明かりを消すと、
夜は思ったよりも近かった。
カーテンの隙間から、
街の光が細く差し込んでいる。
完全な暗闇には、ならない。
それが救いなのか、
それとも逃げ道なのか、
彼女にはまだ分からない。
ベッドに横になって、
天井を見つめる。
眠いはずなのに、
意識だけがやけに澄んでいた。
今日のことを思い出そうとすると、
細部ばかりが浮かぶ。
足音。
空の色。
言葉にならなかった会話。
大事なところほど、
ぼやけている。
「変なの」
小さく呟くと、
自分の声が少し他人みたいに聞こえた。
スマホに手を伸ばす。
意味もなく画面をつける。
通知はない。
分かっていたこと。
それでも、
確認してしまう。
誰かを待っているわけじゃない。
でも、
誰かに気づいてほしい気はしていた。
矛盾してる、と笑いそうになる。
カーテンを少しだけ開ける。
夜空は思ったより澄んでいて、
星がいくつか見えた。
全部遠い光。
届かない距離の光。
なのに、
ちゃんと見える。
それが不思議だった。
自分の気持ちも、
こんなふうに
遠くからなら見えるのかもしれない。
近すぎると、
形が分からないだけで。
「……また、会うのかな」
ぽつりと落ちた言葉。
期待じゃない。
願いでもない。
ただの疑問。
答えがないままでも、
今は困らなかった。
眠れない夜は、
悪いことばかりじゃない。
考えないようにしていたことを、
そっと並べ直せる時間。
焦らなくていい。
無理に名前をつけなくていい。
分からないままでも、
感じていることは本物だから。
彼女は目を閉じる。
すぐには眠れない。
でも、それでいいと思った。
夜はまだ長い。
急いで終わらせる理由もない。
遠い星の光が、
カーテン越しに揺れていた。




