第4話 犯人との対面と小さな策略
事件から一週間後。
京都の裏路地にある「紅椿茶寮」は、いつものように静かで落ち着いた空気に包まれていた。雨が上がり、柔らかな日差しが障子を通して差し込む。
その日、志乃は少し緊張した面持ちで、茶寮の扉を見つめていた。
「今日、あの人が来る……」
心の中で小さくつぶやく。
間もなく、見覚えのある姿が暖簾の向こうに現れた。
――安斎の同業の作家、そして今回の事件の仕掛け人である人物だ。
「志乃さん……お話があります」
犯人は少し緊張した様子で、茶寮の中へ入ってきた。
志乃はゆっくりと頷き、茶を点てながら言った。
「どうぞ、座って。今日は茶と一緒に、少し落ち着いて話しましょう」
二人が向かい合うカウンターには、静かにお湯が湯気を立てている。志乃は茶碗を差し出しながら、穏やかに話を切り出す。
「安斎さんを驚かせた“唐辛子の仕掛け”、あなたがやったのですね」
犯人は小さく息をつき、頭を垂れる。
「嫉妬で……軽率でした。本当に、死なせるつもりはなかったのです……」
志乃は静かに茶を差し出し、そのまま説明を続けた。
「致命的ではなくても、危険を装うことで人の心を揺さぶるのは、危うい行為です。それに、茶寮の評判にも影響します」
犯人は俯いたまま、静かに頷く。
志乃は茶碗を手に取り、縁を軽く撫でながら言った。
「でも、今回は小さな“毒騒ぎ”で済みました。私が気づいたことで、誰も本当に傷つかなかった。これも、知識と観察の力です」
犯人は目を上げ、少し恥ずかしそうに笑った。
「志乃さん……本当に、すごいです」
志乃はわずかに笑みを返す。
「知識だけではなく、観察力と少しの冷静さがあれば、騒ぎも解決できます。覚えておくといいわね」
二人の間に静かな時間が流れる。茶碗の中で湯気が立ち、香ばしい茶の香りが漂う。
志乃の視線は、犯人の心の動きを見逃さない。
「さあ、これで今回の事件は終わり。茶を飲んで、少し落ち着きましょう」
志乃がそう告げると、犯人は小さく息をつき、茶を受け取った。
その午後、紅椿茶寮には再び静かな時間が流れた。
だが、客たちには気づかれない――
志乃の瞳には、少しの警戒心と、そして次に何か起きてもすぐに見抜ける自信が宿っていた。
紅椿茶寮の午後は、静かに、しかしほんの少しだけ、知識と策略の香りを漂わせていた。




