5/5
第5話 静かな午後と小さな余韻
事件から数日後、京都の裏路地にある「紅椿茶寮」は、いつも通り静かに時を刻んでいた。
志乃はカウンターの前に座り、湯気の立つ茶碗を手に取る。
外の雨はすっかり上がり、障子越しに柔らかな陽の光が差し込む。茶の香りが、ゆっくりと店内を満たしていく。
「今回の“唐辛子騒ぎ”も、無事に解決したわね……」
志乃は小さく呟き、茶を啜る。
安斎もすっかり元気になり、もう茶寮を訪れるたびに笑顔を見せている。
犯人も反省し、事件の原因を素直に認めたことで、事態は完全に落ち着いた。
志乃は湯気の向こうで、ふと思う。
“本当に危ない毒は、静かに人を狙うもの。騒ぎを起こす毒は、ただの小さなトリックにすぎない”
客たちの笑い声が、茶寮の中に柔らかく響く。
小さな事件があったことなど、すでに遠い出来事のように感じられた。
それでも、志乃の瞳には冷ややかな光が残る。
――誰かが本当に危険な行動を取ったら、今度は決して見逃さない。
彼女は茶碗を静かに置き、深呼吸をする。
「さあ、今日もお茶を楽しむ時間ね」
午後の光の中、紅椿茶寮には再び穏やかな時間が流れる。
茶の香りと、ほんの少しの知識の余韻――
そして、この小さな茶寮でしか味わえない、ちょっと不思議な平穏が、静かに続いていくのだった。
お読みいただきありがとうございました。




