第32話『自らの力』
宿の部屋を移動した後、リウスとユキは町に出て散策をしていた。
もはやこの世界が夢や妄想の類だとはリウスもユキも思っていないが、現実を直視すればするほど、まるで物語の世界に入り込んだかのような錯覚に襲われる。
青果店、飲食店、武具屋、雑貨店、中には何を売っているのか不明な店まである。商店通りを歩く人々の姿は、多様性という言葉では足りないほどに様々だ。
肌の色も、髪の色も、背格好も違う。
知性を持つ種族が人間だけではないこの世界では、他人と同じ部分を探すほうが難しい。
しかし、そんな多様性の中で、どの種族、人物にも比較的共通している部分があった。
それは、武装をしているという点だ。
どこを見ても、視界には生物を容易に殺害できる道具が映る。
剣、槍、弓、ナイフ、槌――
その武器は人に対して振るわれるものなのか、それ以外の生物に振るわれるものなのか、あるいはその両方か。
日本ではあり得ないその光景が、この世界は異世界であり、そして、安全ではないということを物語っていた。
「ねぇリウス、あの人ウサギの耳が生えてる!」
「それ……自分の姿を見てから言ったらどうだ?」
ユキと会話を交わしながら、リウスは街を歩く。
純粋に周囲の景色を楽しみながら散策しているユキとは違い、リウスの目は道行く人に向けられていた。
「どう? 周りの人のレベルは」
「ん、そうだな……」
二人の散策は単なる観光ではなく、情報収集が目的だ。
この町について、この世界についての情報はもちろんだが、この世界にいる人々に関する情報も収集対象だ。
この世界にはレベルという概念が存在する。
そして、今日一日――いや、こちら側に来たその日のうちに、ここが安全な世界でないことは理解できた。
だからこそ、ゲーム内では最大レベルだった自分たちが、この世界ではどの程度の強さなのか、逸早く確認する必要があった。
と言っても、ただ眺めているだけでは相手のレベルは分からない。そこでリウスは、あるスキルを使用していた。
【対象解析】
ゲーム内では敵のレベルやステータスを確認できるスキルだった。
しかし、この世界に来てからステータスをメニュー画面で確認できなくなった影響からか、対象のレベル、種族、性別を確認できるスキルへ変化していた。
すれ違う人、前を歩く人、店で買い物をする人。リウスは目に入った人に片っ端から【対象解析】使っていった。
「結構、人によって差が激しいな。レベルが一桁の人もいれば、三桁を超えている人もいる」
店の店主や買い物をしている人のレベルはほとんどが一桁。
それに対して、武装をしている物騒な人たちは低くても二桁後半、高い者はレベル100を超えていた。
しかし――
「けど、俺たちほどレベルが高い人はいないみたいだな」
「今まで見た人の中で一番高かった人はレベル幾つだったの?」
「確か……121、だったかな」
目立つ格好だったので覚えている。
全身を銀色の鎧に身を包んだ騎士のような男が、今日見た中で最もレベルが高かった。
街中であんなに武装する必要はないと思うのだが、リウス自身も昨日は似たような状態だったのでなんとも言えない。
「もしかして……私たちって、強いのかな?」
「なんか、無自覚系最強主人公みたいな台詞だな」
「無自覚系……?」
「いや……なんでも。レベルだけ見れば、強い部類に入るんじゃないか?」
今この町にいる人たちが特別弱い部類であるという可能性はゼロではないが、そんな特殊な状況まで想定するのは無意味過ぎる。それこそ、今この瞬間に隕石が落ちてくる可能性もゼロではないのだから。
レベル269。
現在のリウスのレベルは、今確認した限り、この世界でも高い部類に入るのだろう。
ゲームでは、レベルの差が100も離れた相手に勝ち目はなかった。
もしそれがこの世界でも同じだとしたら、リウスはきっと、今この場にいる人を無差別に殺すぐらいのことは、容易にできてしまうのだろう。
もちろん、そんなことをするつもりは毛頭ないが――
もし、もし仮に、力を振るわなければならなくなった時。
(俺は、人を殺せるだろうか)
自分自身への問いかけ。答えなんて出すつもりのない問い。
しかしリウスは無意識のうちに、頷いていた。




