第31話『優しくなんかない』
「それで……リウスはどこに行ってたの?」
落ち着きを取り戻し、寝間着から着替えた後、ユキはリウスに尋ねる。
「あー、説明するより行った方が早いかな」
「行くってどこへ?」
「直ぐそこ。別に外行く訳じゃないよ。ただ、忘れ物はしないようにな」
「う、うん。分かった」
ユキはリウスに言われるがまま身支度を済ませると、部屋に忘れ物がないかチェックしてから連れ立って部屋を出た。
「どこに行くの?」
「3階」
リウスはそれだけ言うとスタスタと階段へ歩いて行ってしまった。
少し駆け足でユキも後を追う。
冒険者ギルドの3階も2階と同様に宿屋として使われている。ただし一つだけ違うのは、ここ3階にある部屋は全て、二人以上で泊まれる作りになっているということだ。
しかし、当然ユキはそれを知らない。訳も分からぬまま一つの部屋の前に連れてこられたユキは、リウスに続いて部屋に足を踏み入れる。
部屋の作り自体は、先程までいた部屋とあまり変わらない。
違うのは部屋の大きさと、設置されているベッドの数。
二つに増えたベッドを見て、ユキはあることに思い当たる。
「だから昨日、私にベッドを譲ったの?」
「ん、まあな。俺だってベッドで寝たいし。かと言ってユキを椅子に寝かすわけにもいかない。
だったら、二人用の部屋を取り直したほうがいいと思ったんだ」
同室で過ごすのが1日限りであれば新しく部屋を取ることもなかった。
しかしどうも、同室での生活は無期限らしく。
であれば、さっさと二人部屋にしてしまったほうが良いとリウスは考えたのだが、どうもユキは何かが不満なようだった。
「なんだか……私だけズルしてるみたい……」
「別にズルじゃないだろ。俺が譲ったわけだし」
「そうなんだけど……なんか、少しモヤモヤする」
その言葉には、ユキの優しさと強情さが表れているような気がした。
昨日ユキは、明日は自分が椅子で眠るつもりだったからこそ、ベッドで眠りについたのだ。
今回のリウスの行為は、そのユキの気持ちを蔑ろにしたと言えなくもなかった。
「……まあ、俺は今日ベッドで寝るけど、ユキがどこで寝るかに関しては、俺は何も言わないよ」
「……そっか」
それだけ答えて、ユキは“椅子”に座る。
そして、一言付け加えた。
「リウスは、優しいね」
――違う。
ユキの言葉に、リウスは心の中だけで反論する。
俺は、優しくなんかない。
もし優しそうに見えているなら、それは、俺が優しく見られようとしてるだけだ。
そう見られたほうが、便利だから。
無駄な争いを避けるために、そうしてるだけだ。
だからこそ、俺は言わなければならない。
どう捉えられようと、伝えなければならない。
「俺は、優しくなんかないよ」
リウスは、呟いた。




