第33話『一日の成果』
のんびりと続けていきますよ。
日が傾き、空が朱色に染まり始める。
「そろそろギルドに戻るか」
「そうだね」
1日掛けて町を歩き回ったことで、大抵の場所は回ることが出来た。
他人に案内出来る程ではないが、生活をする上で必要不可欠な場所に関しての知識は手に入った。
飲食店、風呂屋、服飾店に武具屋まで。いつ必要になるかも分からないが、覚えておいて損ということもないだろう。
それにしても。
冒険者ギルドへの道を歩きながら、リウスは今日町を見て感じた違和感について考える。
今日1日、実際に歩いてみて分かったことだが、この町は特別栄えている町という訳ではない。
勿論、リウスの持つこの世界に関する知識は皆無に等しいので、考えていることが的外れである可能性は相応に高いのだが、それを考慮しても、この町が特別栄えているようには見えなかった。
町には生活に必要であろう最低限の飲食店や服飾店などが存在するが、それら全てはこの町に“住む”人が利用するために存在しているようだった。
リウスが感じた違和感はそこにあった。
この町には、そこに住む人間が利用するための施設しか存在しない。
特別名所になるようなものも存在しない。
にもかかわらず、この町には外部から訪れたであろう人が多過ぎた。
町で見かけた多くの武装した人々。
町の規模に似合わず人が溢れていた冒険者ギルド。
もしかしたら、何かイベントでもあるのかも知れない。
それが年に一度開催されると言ったようなお祭りなのか、突発的に発生したものなのかは分からないが、どちらにせよ今の自分たちには関係ないだろうと、リウスは思考を放棄する。
今の俺たちにはそんなことに関わっている余裕はない。
頭を切り替えて進行方向に意識を向けた――直後のことだった。
ドンッ。
「あ、すいません」
体が何かにぶつかり、リウスは反射的に謝罪する。
誰にぶつかったのだろうとリウスが背後に目を向けると、そこには全身を真っ黒な布で覆った人物の後ろ姿が見えた。
(何だ……あの格好)
目立つなどというレベルではない。今日1日で様々な姿をした人々を見てきたが、その中でも明らかに異質な容姿だった。
いくら日が落ちてきていると言っても辺りはまだまだ明るい。考え事をしていたとは言え、肩がぶつかる程の距離にまでなっても、あんな姿をしている人物に気が付かないなどあるだろうか。
確認してみるか。
今日だけで何度使用したか分からない【対象解析】を、黒尽くめの人物に対して使用する。
「っ……」
しかし、それは不発に終わった。
より正確には、スキルは正常に発動しなかった。
これまで【対象解析】を人に対して使った場合、パソコンのポップアップのようなものが現れ、そこに相手の「レベル」「種族」「性別」が表示されていた。
しかし、黒尽くめの人物のポップアップ内の三つの項目は全て空白であり、何も表示されていなかった。
「…………」
今日だけで何度【対象解析】を使用したかは分からないが、こんな表示は初めてだ。
スキルが無効化された?
ゲーム内でもスキルの無効化は出来たが、それはごく限られた方法でのみ可能な事だった。ゲームの仕様が引き継がれているこの世界なら、同様の方法でのスキルの無効化は不可能ではないだろう。
だとすれば、あの人物は元プレイヤー? しかし、この世界独自の方法でスキルを無効化する方法もあるかもしれない。
方法がどうであれ、問題なのは“リウスのスキルが無効化されたこと”だ。
レベル269とはいえ、この体で行使できる力は絶対ではない。
あまり自分の力を過信し過ぎるのはよくないな――
「リウス……?」
――と、考え込んで足を止めたリウスにユキが声を掛ける。
「どうしたの? 何かあった?」
「ああ……いや、何でもない」
背後を振り返り黒尽くめの人物を探すも、既に人混みに紛れてしまったのか、あれ程目立つ格好だったのにもかかわらず、再び見つけ出すことは出来なかった。
「……取り敢えず、今は帰ろう」
空には、一番星が輝き始めていた。




