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第24話 ドクロのガンマンと死神の母と義息子――廃ラブホテル包囲網!

 ガガガガガガガガッ!!


 銃声が轟いた。


 壁に無数の穴が穿たれ、ソファが弾け飛ぶ。ガラスの破片が床を舞い、かつて客をもてなしていた調度品が、容赦なく破壊されていく。


 ここは、廃墟となった元ラブホテル。


 そして現在、立派な戦場だった。


「……ふう」


 壁際に腰を下ろし、片膝を立てた女が、場違いなほど気楽に息を吐いた。


 両手には、黒光りする二丁のオートマチック拳銃。


 山高帽に、背中へドクロを描いた黒いロングコート。シャツにスラックス、ブーツという西部劇さながらの出で立ちだ。


 壺井あかり。


 ――少なくとも、正顕とさやかはそう認識している。


 その隣には、同じドクロのコートを着た男女がいた。


 茆原正顕と、高城さやか。


 二人ともサングラスをかけ、黒いコートの裾を翻している。


 髪型まで妙に決まっていた。


 映画『マトリックス』のネオとトリニティが、そのまま日本の裏社会に迷い込んだような格好である。


 ただし、映画の主人公たちと違って、正顕はこの状況にまったく納得していなかった。


「まずいですね……」


 正顕は割れた窓から外を覗き、静かに呟いた。


「どんどん応援が集まってきています」


 ホテルを取り囲むように、武装した男たちが集結していた。


 自動小銃を抱えた男。


 入口を塞ぐ男。


 裏口へ回り込む男。


 数えるのも馬鹿らしくなるほどの人数だ。


 しかも、全員がこちらに銃口を向けている。


「……ねえ」


 さやかが、こめかみを押さえた。


「どうすんの、これ?」


 手にはクナイ。


 その表情は冷静だったが、声には隠しきれない不満が滲んでいた。


 そもそも、彼女たちは情報を買いに来ただけなのだ。


 どうして廃ラブホテルで銃撃戦をする羽目になったのか。


 説明を求めたい相手は、目の前にいる。


「情報がリークされたんだろ」


 あかりは、まるで天気の話でもするように答えた。


「よくあることさ」


「よくあってたまるか!」


 正顕が即座にツッコむ。


 あかりは気にした様子もなく、拳銃の残弾を確認した。


「まあ、なんとかなるだろ」


「根拠は?」


「実績だな」


「過去の実績で、現在の包囲網を突破できる保証はありませんよね?」


「細かい男だなあ」


「命が懸かっているんですが!?」


 正顕の声が、思わず裏返った。


 その横で、さやかがクナイを握り直す。


「正顕さん。今度、あなたの知り合いを選ぶときは、もう少し常識的な人を希望するわ」


「私もそうしたいです……」


「聞こえてるぞ、お二人さん」


 あかりはニヤリと笑った。


「それだけ元気なら、まだ死なねえよ」


 その言葉に、正顕は悟った。


 ――この人、絶対に反省していない。


 そして、さやかも同じ結論に達していた。


 ――帰ったら、事情を聞かせてもらいましょうか。


 ただし。


 この場を生きて切り抜けられれば、の話だ。



     * * *



 数時間前


「……なんなの、その格好?」


 朝。


 玄関に立つ二人を見て、みさおは呆然とした。


 黒いロングコート。


 サングラス。


 背中には、でかでかと描かれたドクロ。


 正顕とさやかが、まったく同じ格好をしていた。


 しかも、髪型まで映画の登場人物を意識したように整えられている。


「今から、正顕さんとデートだから」


 さやかは、にっこり微笑んだ。


「それでお揃いなの!?」


「うん」


「なんで!?」


「この格好で行け、と指示があったんだ」


 正顕は軍用ダッフルバッグから、一枚のメモを取り出した。


 そこに書かれていたのは、黒いコート、サングラス、そしてドクロの意匠。


 以上。


「……ミッションなの?」


「その可能性はありますね」


「可能性って……」


 みさおは、二人を交互に見た。


 どう見ても、デートの服装ではない。


 むしろ映画の撮影か、これから悪の組織を壊滅させに行く人たちである。


「マトリックスなの……?」


 自分の夫が母親と二人で出かけることについては、もうどうでもよくなっていた。


 それよりも、この格好で外を歩くことのほうが気になる。


「危険かもしれないから、みさおは家にいて」


 さやかが、いつもより少し真剣な声で言った。


「うん……。ママも行くの?」


「ええ」


 その一言で、みさおは察した。


 母親が危険な場所に向かう。


 そして正顕も同行する。


 つまり、そういうことなのだろう。


「……二人とも、気をつけてね」


「ええ」


「行ってきます」


 こうして、ネオとトリニティ――もとい、正顕とさやかは家を後にした。


     * * *




 地下鉄駅の構内。


 正顕とさやかは、メモに記された場所へ向かっていた。


 人通りの少ない通路を曲がる。


 その先にあったのは、ただの壁だった。


「……ここ?」


「そのようですね」


 正顕が壁に手をかざす。


 すると、表面に波紋が広がった。


 まるで水面のように、壁が揺らいでいる。


「へえ……」


 さやかが目を細める。


 正顕は一歩踏み出し、そのまま壁の向こうへ消えた。


 続いて、さやかも足を踏み入れる。


 その先にあったのは、薄暗い地下街だった。


 古びた照明。


 どこか懐かしい雰囲気の通路。


 そして、壁際にぽつんと置かれたキオスクのような売店。


 そこには、先客がいた。


 金髪の女。


 山高帽。


 黒いコート。


 背中にはドクロ。


 腰には拳銃。


 まるで西部劇から抜け出してきた賞金稼ぎだ。


 女が振り返った。


「おっ。来たか」


 壺井あかりだった。


 彼女は、カウンターの向こうにいる男を顎で示した。


「おいおい、高いぜ」


「嫌なら、買うのをやめとけ」


 気だるげな男の声が返ってきた。


 カウンターに立つ男は、着崩したシャツにネクタイ、ベストとスラックスという格好だった。


 口にはタバコ。


 いかにも裏社会の商人といった風情である。


「いらっしゃい。何にする?」


 男が顔を上げる。


 その顔は――狼だった。


「…………」


「…………」


 正顕とさやかは、そろって固まった。


「……狼?」


「狼だな」


「見ればわかるわよ」


「ですよね……」


 狼男は、二人の反応を気にすることなくタバコをくゆらせた。


「情報一つにつき、一本だ」


「一本?」


 正顕が聞き返す。


「そうだ。一本百万円」


「……百万円?」


「まあ、内容によるけどな」


 狼男は平然と答えた。


 さやかの眉間に、しわが寄る。


「ずいぶん強気な商売ね」


「安売りする理由がないんでね」


「ぼったくりでは?」


「嫌なら買うのをやめとけ」


 狼男は、にやりと笑った。


 正顕は、静かに息を吐く。


 壁の向こうにある秘密の地下街。


 狼の顔をした情報屋。


 一つ百万円の情報料。


 そして、なぜか自分たちとお揃いのドクロコートを着た賞金稼ぎ。


 ――帰りたい。


 心の底から、そう思った。


「ここは情報屋だぜ」


 あかりが二人を振り返った。


「予定どおりだな」


 その笑みには、何の不安も見当たらない。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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