↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命一年、七千万円で異世界転移したら、洗脳された美少女を救う悪役教師になっていた【なろう版】  作者: 成政
七千万円で異世界に来たら、洗脳された美少女の人生を背負うことになった。
2/30

第2話 引き金は、涙と引き換えのキスで(2)

 翌日、休日。


 俺はベランダで煙草に火をつけた。


 紫の煙が秋空に漂う。


 テーブルの上には抗がん剤、医療用麻薬、ステロイドの山。


 あの少女の凛とした雰囲気


 芯の強さの中に隠された弱さ


 そして悲しげな瞳。

(俺が助ける……?)


( 末期ガンの、こんなおっさんが?)


( 犯罪だろう)


(どうかしてる)


 自嘲しながらも、俺は清潔なシャツに着替え、街へと繰り出した。


 一人で部屋にいたくなかったのだ。



 すると――


 ショッピングモールの中庭に


 彼女はいた。


 休みなのに、なぜかセーラー服姿で。


「ふふ、また会えたね」


「君は……」


「どうでもいいじゃない」


 少女は無邪気に笑うと、俺の腕にギュッと抱きついてきた。

 

 豊満な胸の柔らかい感触が伝わり、心臓が跳ね上がる。


「行こ!」


 強引に引っ張られた先は、アイスクリームの屋台だった。


「私、あれが食べたいわ!」


 数十種類のアイスが並ぶメニューを指差す。


 少女は腰に手を当てて鼻息を荒くする。


「あのさぁ……」


「こういう時は男がサッと買うものよ! 何がいい?って」


「……そうだね。」


「何がいいんだい?」


 俺が苦笑すると、少女は真剣な顔で俺の目を覗き込んできた。


「いい? 覚えておいてね。」


「私の好きな組み合わせは、上から『リッチストロベリー』と『チョコミント』。ダブルで!」


「ダブル、ね」


「もしトリプルなら」


「これに『ビターキャラメル』! 」


「これで100点満点! 」


「この種類と順番……絶対に忘れないでね?」


 渡されたアイスを、少女は本当に美味しそうに頬張る。


 ベンチに並んで座る。


 俺が横目で見ていると、少女は食べかけのアイスを差し出してきた。

 

 少し削れたストロベリーの部分。


「……あなたは食べないの?」


「 一口、食べる?」


「っ……いや、やめとくよ」


 美少女の食べかけなど最高のご褒美のはずだが、大人の理性が邪魔をする。


 少女は途端にジト目になった。


「あ~あ、そういうとこよ! 」


「美少女から差し出されたアイスよ?」


「 『喜んで食べる』の一択でしょ!」


「自分で美少女って言うか」


「あら、容姿には自信があるのだけれど。」


「自意識過剰かしら?」


「いや、間違ってないよ」


 俺が苦笑しながら胸ポケットから煙草を取り出そうとする。


 少女はすっとそれを横から奪い取った。


「めっ! 」


「レディの前で勝手に吸わないの。」


「吸いたい時は『吸ってもいい?』って聞くものでしょ?」


「……君の前だと、俺は子供みたいだな。歳上のはずなのに」


「ふふ。大人の男なんて、歳をとっただけの男の子よ」


 少女はクスクスと笑い……ふと、寂しげに目を伏せた。


「……パパが、そう言ってた」


 空気が一瞬、重くなる。


 俺は思い切って尋ねた。


「あのさ……そろそろ名前、教えてくれないか?」


 少女はカッと目を見開いた。


「えっ……私の名前、わからないの!?」


「 あなた、すごく私に『お世話』になったはずなのに!」


「 毎日のように……」


「その私がわからないと!?」


 悪戯っぽく微笑みながらも、少女の瞳には深い透明感が宿っている。


「信じられないわ。」


「昔の女はもう忘れたってワケ? ……」


「ほんとにわかんないの?」


「ごめん……君みたいな綺麗な子、忘れるはずないんだが……」


「呆れた。」


「私はあなたの名前、ちゃんと覚えてるのに……」


「マサアキ。マサくんでしょ?」


「えっ……!? 」


「なんで……」


 驚愕する俺に、少女は懐かしそうに目を細めた。


「あなたが教えてくれたんじゃない。」


「それに……同じ学校にいたじゃない。」


「危機を何度も救ってくれた……」


「私のファーストキスだって…」


「あなたなんだから」


「が、学校!? キス……!?」


 パニックになる俺の唇に、少女はそっと人差し指を立てた。


「ふふ、秘密よ。」


「当ててみて?……」


「当てられたら、私を好きにしていいわ」


 ぽっと頬を赤らめる少女。


 だが次の瞬間、彼女は寂しそうに立ち上がった。


「名残惜しいけど……」


「そろそろ時間ね。」


「いい? 必ず迎えに来て……待ってるから」


 少女はまっすぐに俺を見つめ、言い渡した。


「合言葉は――」


「『神に逢えば神を切り、仏に逢えば仏を切る』」


「『我らは冥府魔道に生きる者』」


「えっ、子連れ狼!?」


「ふふ、覚えた? 」


「それくらい愛し合ってるの、お互い……」


「それと、私が好きなアイスは?」


「ええと……リッチストロベリー、チョコミント、ビターキャラメル……」


「100点満点! 」


「種類と順番を間違えちゃダメよ。」


「これは……パパと、あなたしか知らないんだから。」


「絶対にね!」


 そう言い残し、少女は脱兎のごとく走り去っていった。



 その日の夕方。再び『壺新溜神社』の境内。


「……その女に、会いに行きたいのだな?」


 倍美が厳かな声で問う。


「あの世界は、この現実のものではないぞ……」


「行くなら西部劇の世界とかにせんか?」


「いいえ。」


「彼女が……『迎えに来て』と言いましたから」


 俺の決意に偽意はない。


 倍美は大きなため息をつき、あかりに合図を送った。


 あかりが引っ張ってきたのは、巨大なミリタリーダッフルバッグだ。


「持っていけ。」


「使い方は頭の中に直接送り込んでやる」


 次の瞬間


 黒いカーテンのような領域が三人を包み込んだ。


「良いか。」


「その女がおる世界は過酷な世界じゃ。」


「歪んだ欲望によって具現化した異界……」


「お主とその女が強く惹かれ合ったからこそ、道が繋がった。」


「お主には妾の力を少し分けてやる。」


「『龍人』になれる力をな……」


「ただし、制限時間は3分じゃ」


「3分……?」


「それ以上使えば、1秒につき1日」


「お主の寿命が削れる。」


「心せよ。」


「さらにこれを使え!」


 あかりがバッグのジッパーを開ける。


 そこには――銀色に鈍く輝く大量の凶悪な銃器。


 ショットガン、デザートイーグル、バレットM82対物ライフル、特殊弾薬、タクティカルナイフ、そして背中に巨大なスカルが描かれた防弾コートとサングラス。


「弾が尽きたら調達するメモも入れたぜ。」


「コートはお揃いだ!」


「な、何を……!?」


 呆然とする俺に、倍美がフッと微笑む。


「安心せい。」


「お主のガンは治しておいた……」


「足元を見よ。」


 俺の足元に、赤く輝く巨大な魔法陣が展開する。


「良いか……」


「生き残るには『絆』じゃ。」


「強く結ばれた心と心で」


「一点突破せよ!」


「待っ――」


 パチンッ!


 倍美が指を鳴らした瞬間


 俺の視界は白光に包まれ、意識が吹き飛んだ。


 ……残された境内。


「いいのか義姉貴」


「説明不足じゃねえか? 」


「あんな『いかがわしい世界』に行くって、まともに教えてねえぞ」


「ふん、匂わせはしたわ。」


「自己責任じゃ」


「まあ、姉貴の力を借りてりゃ負けねえだろうけどさ」


「問題はそこではない……」


「あの女の方じゃ。」


「洗脳され、傀儡と化した『ヒロイン』を、あの男がどうするか……」


 倍美は消えゆく魔法陣の残り香を見つめながら、静かに呟いた。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。