第8話 糸目でお茶目にハチャメチャな
魔物の襲撃から二日後。村人総出で柵の補修と門の修理を行った。アールが村を離れると聞いて、皆が不安そうな顔をする。でもアイゼは残ると聞いたら、手の平を返すように安心した素振りを見せた。
「それじゃあ行ってきます」
ビレステを見送りにビゼイルとボラがやってくる。足はまだ直っていないのか、杖をついて、腰をスノーラに支えられていた。
「アールヴァクさんの言う事をしっかり聞くのよ」
「分かってる。行ってくるね」
スノーラの頭を撫でる。
無視。
出ていくのを認めていないのか、スノーラは顔を隠すようにボラさんの尻にぴったりと引っ付いている。
「お腹を冷やしちゃだめ。危ないことからは迷わず逃げること」
あちゃあ。こりゃ長くなるわね。
ボラの小言を避けるので、アイゼに話し掛ける。
「あれアールは?」
「郵便を集めてから来るそうよ」
「それは助かるな。そろそろ行商人も来る頃かと思うが……」
ビゼイルが言った。
出来ることなら旅は誰かに同行させたい。アイゼもそう思っている。
「それでビレステ」
ちょっと来てくれるかしら。
とアイゼはゆったりとした笑みを浮かべて手招きする。ビレステは素直に彼女の前に立った。
「いい? 研究所に行ったらグレナっていう人が居るから」
「うん」
こくりと頷く。
「その女とアールを二人きりにさせないでね」
アイゼの糸目が開く。目の奥がギラリと強く光った。
「へえ?」
意味不明な角度から来た言葉に、馬鹿面を晒すビレステ。
「いいから」
がしり。
ビレステの両肩をアイゼが掴んだ。
「それからもし途中で娼館に寄ろうものなら私にチクる。って脅して」
「い、痛い痛い」
「他にも浮気しそうになったら貴方が止めなさい」
ググッ。
「爪。アイゼさん爪が喰い込んでる。肩にイタタタ」
「蹴飛ばしてもいいから」
「そんな大丈夫ですよっ。アールって女性に興味ないからあ! あがっ。離して」
「絶対にっ、グレナとっ、二人きりにしないこと!」
「ひぃん。辞めてくれない怖いもう帰りたいよぉボラさぁん」
「分かったの?」
「分かり、――まひた」
返事に満足したのか、アイゼはいつもの笑顔に戻る。
「よろしい」
跳ねるように言い、ようやくビレステを解放した。
近くに立つビゼイルはそちらを見ないように下を向いている。その背中はじゃが芋のように丸かった。
急ぐ様子もなく、丘の道をアールが歩いて来た。全員が振り返る。
「郵便を集めてきた。アイゼの両親にも何か送れるぞ」
アールは袈裟懸けにしたバックとは別に、紐を通した袋を手にしている。
「私は別にいいわ。この前手紙を送ったばかりだし」
よし。と頷く。
「寄り道しないで、早く帰るのよ」
「分かっている。アイゼも風邪を引くなよ」
夫婦は短い抱擁を済ませた。
「これを。神樹の枝で作ったの」
左手首に、枝を編んだブレスレットをはめる。
「まだまだ小さい木だろうに。いいのか?」
「旅路の安全を祈っておいたから、ずっと付けていてね」
不思議と、腕に馴染んだ。
「ありがとう」
「王都の第一騎士団にはまだカノート隊長が居る筈じゃ。何かあった時にわしの名前を出せば、粗末にはされんじゃろう」
ビゼイルは第一騎士団を勤め上げ、この村に赴任してきた。田舎の村の警備というゆるやかな余生を送れたが、前村長が譲る形で村長に就任している。
路銀の入った小袋をくれる。郵便を出すお礼か。金には困らないだろうが、有って困ることもない。有難く受け取った。
「助かる」
礼を言うとビゼイルも頷く。
「ビレステを頼む」
緊張しているのか、肩を落としたビレステに声を掛けてやる。
「準備は出来たか」
「あたしの肩、壊れちゃった……」
「ん?」
こうして、エルフのアールヴァクと、ビレステの旅が始まった。
目標は、王都の研究所でビゼイルの無属性魔法が寿命に影響するのかを調べることだ。そして暴発しないよう対策を見つけること。




