第7話 勇者の魔法
ビレステは自分の部屋のベッドに寝かされていた。ただの昼寝にも見える。
「変ね。外傷はなさそうだけど」
それにしてはビレステの顔は青白い。アイゼが胸に手を当て、鼓動を確認した。
アールは魔力を視ようと目を凝らす。
「魔力は少ないがあるな。体が衰弱しているみたいだ」
呟いてから、一呼吸おいて続けた。
「ビレステは無属性魔法を使った」
正直、アールは自分の目で見ても半信半疑だった。
アイゼが振り向く。
綺麗な金色の瞳がアールの目をじぃっと見る。夫を疑う視線は浮気どころかどんな女と何の話をしたのかすら看破する。アールは嘘も冗談も言っていなかった。
「無属性魔法。本当に――?」
アイゼが驚いたのを、ボラは好意的に受け取ったらしい。
「それって凄いことなのよね」
「凄い魔法だ。だが、寿命を代償にした魔法だと言われている」
「そんな――」
「詳しい話は、まだ分からないわ」
「無属性魔法と言ったか」
心配して追って来たらしい。ビゼイルが部屋の外から声を出す。
「わしも第一騎士団に居た頃に聞いたことがある。勇者の魔法だと」
アールが頷いた。
「そうだ。異界から召喚された勇者が使う魔法だ。実際に一つ前の勇者召喚で来た、女勇者が行使したと記録もある。それと」
ボラたちにも聞かせるべきか迷ってから、それでもアールは言う。
「――魔王、そしてその幹部が使う魔法でもある」
「魔族の幹部は大概が短命じゃ。なので無属性魔法は寿命を削ると言われておる」
「でも勇者様はそうじゃないのよね……?」
「そうだ。だが異界の勇者に我々の常識や理論は通じない。同じことをしても同じ結果になるとは思わない方がいい」
「……」
ボラさんは眠っているビレステの手をぎゅっと握る。
「どのくらい寿命が減るかは分からないが」
「騎士団では、一つの魔法で一年から五年と言われておったな」
「短命種にとっては問題だな?」
五年くらいならいいじゃないかとも思った。
アールはちらりとアイゼを見る。
当然でしょう。
心を読んだアイゼは腕を組む。
「そもそも寿命なんて測れないから、分からないわね」
「ビ、ビレステ、居なくなっちゃうの? やだよ、……やだ」
大人たちの足の間に立つスノーラは、すでに泣きそうになっている。
「魔法を使わないよう、ビレステが起きたら私が言っておく」
アールがスノーラの頭を撫でてやると、ひっしとボラの足に抱きついた。
……納得いかん。
「そうも、いかないみたい」
ボラが遠慮がちに話し始める。
――スコルに襲われ、アールが巡回に戻った後のことだ。
足の怪我の治療と、子供たちの手当ての為にビレステが薬箱を引っ張り出そうとした。ガタンと上から重そうな工具が落ちてきて、ビレステの顔に直撃するかと思われた瞬間。透明な板みたいなものが現れて工具を弾いたらしい。
今のなに?
分かんないけど、危なかったあぁ。
ビレステが急に倒れたのは、薬箱を開き膏薬を塗ろうとした時だった。
「暴発か」
身の危険を防ぐ代わりに寿命を減らしたら元も子もない。
「どうするの?」
アイゼも困惑している。
自分の意思とは関係なく発動するなら、話は大分変わる。
「魔力の制御は教えてきた。それでも暴発するとなると、――研究所で調べるしかないな」
そもそも練習している火属性の初歩魔法は出来ずに、無属性の魔法が出来るのもおかしい話だ。
「王都まで行くつもり?」
「そうするしかない」
ラザニ村に居たところで事態が好転すると思えない。
「うぅん。そうよねぇ」
アイゼは首を捻り、頬に手を当てる。まるで困ったような顔をした。
「ボラさん」
声の元を辿ると、ビレステが目を覚ましている。
「ビレステ。良かった。――気持ち悪くない?」
「なんか、目が回って」
「いいから。ちょっと寝ていなさい。喉渇いたでしょう。すぐ水を持ってくるわ」
目覚めたことでひとまずは安心した。一堂はぞろぞろと部屋を後にする。
それから村を出る準備を始めた。
アイゼは神樹の世話があるので同行はできない。不満そうだが、ことはビレステの命に関わる。




