↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
六章 ②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/88

第77話 無属性魔法

 豆粒くらいに見える距離だ。魔法を撃ってきた。放たれたのは三つの黒い物体で、近くまで来てようやく炎だとは分かった。


「総員退避! スアチ、魔法で防御するぞ」


「ハッ」


 魔法小隊とスルーゼ中尉が短く詠唱し、大きな土壁に水を纏わせた。土の塊が飛んでいく。まるで呑むように黒炎はそれ受け入れた。


 駄目だ。なにかおかしい。

 今まで見てきた魔法じゃない。


 スルーゼ中尉もそれが分かったのか、即座に剣を抜いた。特殊な鉱石を使った光の剣だ。横にして持つ。魔力を帯び、光り輝いた。

 魔力で防殻を作るのは大変だ。スルーゼ中尉にコツを聞いたら、守ろうとする心意気が大事だと役に立たないことを言われた。僕は無属性魔法があるからあまり関係はないけれど、スアチ小隊長も出来ないと言ってるからよっぽど難しいのだろう。


「下がれ!」


 そう言って自らは前に行くスルーゼ中尉に、激発されたのかもしれない。昨日注意されたばかりだと言うのにまた足が前に出た。


「来るぞ!」


 黒炎が水を蒸発させ、土壁にめり込む。直径が五メートルくらいで、大きさよりもその異様な炎に迫力があった。宇宙から落ちてきたような炎だ。


 ぬぐぐぐぐ。

 スルーゼ中尉の防殻に激突する。彼女の周りの地面がへこんだ。ギリギリと空気が軋む。


 防殻が割れたと同時に横から【障壁】を出す。ヤーナー補佐官もスルーゼ中尉を包むように【アースウォール】を唱えた。

 全力で張る。

 黒炎は風船が割れるようにして消えた。熱風が吹き抜けていく。


「おわああああ、――っあ?」


 両手で頭を守る姿勢になったスルーゼ中尉は困惑するように薄目で前を見て、それから僕を見た。


「ふう。助かったぞ、ハルキ殿」


「中尉。スルーゼ中尉。やはり叫び声が」


「ムッ」


「少し気を付けるだけでいいのです。また雌オークになるおつもりですか」


「死の危険が迫っていたのだぞ。声を出すことで気合を入れているのだ」


「気合で防げるなら苦労しません。引くべき時は引いてください。スルーゼ中尉が行動不能になればどのみち隊は崩れるのです」


 またやってるよ。小隊長たちが呆れる。


 ヤーナー補佐官はどうしても品行方正な淑女としての振舞いをスルーゼ中尉に求める。後から聞いた話だが、それは兄貴分のエイリフ中尉からの要請でもあった。妹同然の嫁の貰い手が心配なのだ。ただでさえ軍に居ては顔を傷つけやすく、また筋肉が付いてゴツくなりがちだった。やりたいことをやらせてあげたい兄心と、未来の幸せを憂う心が交錯して絡み合う。


「こっちだったか」


 かすれた声。

 人間の男に見えた。こめかみに生えた角は節くれだち、どこか禍々しい。ゲームで見るような魔族だった。もしかして最初にファンタジーゲームを作ったのは異世界の勇者だったんじゃ。とハルキの頭によぎる。

 高さ二メートルくらいで宙に浮かんでいる。大道芸みたいに、なにかタネや仕掛けがある訳ではなかった。あれだけと遠いところから、一瞬で距離を詰めたのか。


「無属性魔法を使った勇者はお前か」


 一番前に居たのは僕だ。見下ろしてくる視線とかち合う。獲物を見つけた高揚はなく、問題集の一ページでも開いた表情だった。

 襲撃してきた相手に返事はいらない。掌を向けると、自分の視界が塞がった。


【魔弾】


 男が掌を出し、【障壁】を使った。自分の手が邪魔で完全に見えてはいないけど確かに【障壁】だ。連続で撃つ。破れない。

 中隊は素早く反応した。


 イジの居ない小隊はヤーナー補佐官が受け持ち、僕の横から飛び上ったスルーゼ中尉の援護に向かった。

 地上に下りた魔族は手に持った剣で応戦した。剣は一つでも、次々と襲い来る斬撃を躱し、逆に斬りかかる。


「中隊。向こうからわざわざ来てくれたぞ。心して出迎えてやれ!」


 ヤーナー補佐官が号令した。

 僕も裏へ走る。横顔を見て、その左肩を斬る。血は出ない。剣が振りかぶった位置に戻ったことで、()()()()ことに気付いた。数多の斬撃が魔族に降りかかる。それらを捌き。こっちを見た。掌。【魔弾】がくる。防御はしない。避けて、物量で押し切る。その方が被害は少ない。横に避けようとした足が小岩を踏んで、体勢が崩れる。


 あ――。

 やばい。

 冷や汗がぶわりと出た。矢が魔族の腕に刺さる。

 アウルの矢だ。ひるんだところに片膝を突きながら掌を向ける。防御された。でも。


「【障壁】が薄くなってます。攻撃し続けて!」


「ウム!」


 スルーゼ中尉の剣が、より強く光る。剣先は踊るように軌跡を描いた。魔族は防ぎきれずに徐々に押されていく。スルーゼ中尉はどんどん前へ足を進める。たまらずに空へ逃れようとした。


 矢と魔法が炸裂する。飽和攻撃だ。土魔法で起きた砂礫が爆風で飛ぶ。土煙で視界が悪い、ここからはなにも見えない。


「ハルキ殿!」


 スルーゼ中尉の声。なにかの反射がねずみ色の視界にちらついた。刹那、煙を穿つように剣が現れる。魔族は笑みを浮かべていた。


【障壁】

 間に合ってくれ。


 ピチャリ。血の雫が顔に掛かり、顔を横に向ける。

 アウルの背中から突き出た剣は邪悪な色を纏っている。それがアウルの血の色だとは認めたくなかった。


「うおおお」


 アウルが槍を突き刺した。剣が抜け、引き摺られるようにアウルの身体が前へ引っ張られる。


「アウル!」


 血を流しながらも追撃に持ち替えた弓を、魔族は簡単に剣で払った。弓は折れ、持っていた指が飛ぶ。

 倒れるアウルを受け止めようともしない自分に驚く。転がり、横から【魔弾】を撃つ。避けられた。今度こそ剣が降ってくる。剣で受ける。力で負けている。ギリギリと魔族の刃が左肩に触れ、そこが熱くなる。


「ああああああ!」


 渾身の力で押し返した。刺さっていた槍の柄を掴み、ずぶりとより深く刺した。手首を返す。斬る。剣同士の鈍い音、もう一度。今度は軽い音が鳴り、僕の剣が折れた。切っ先が空に舞い、向こうへ落ちていく。

 魔族の後ろから、見事な()()()()が走り込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。