第62話 飛べたなら
ヴァベック盗賊団と言う犯罪組織らしい。規模は二十人ほどで大きかった。衛兵の詰め所から出てきたマグルが愚痴る。
「名前が分かってて、根城もだいたい分かってるのに動かない意味が分からねぇよ」
「衛兵に任せられないな」
待っている間に殺されるか、売り飛ばされるかしてしまいそうだ。
「数人攫われたって言ってたよな。冒険者ギルドで依頼があるかも」
そう言い、先頭に立って歩くマグルが心強かった。アール一人ではこうはいかない。せいぜい、ビレステに当たらないことを祈って魔法をぶち当てるくらいだ。
「お姉さん、依頼来てないか?」
依頼ボードを一通り見てから、マグルは受付に行った。忙しそうだったが、半ば強引に話を聞かせると、どうやら依頼はあるらしい。機械工からだ。相場より報酬が少なく、後回しにされたみたいだ。
「よしよしこれで他に誘える」
依頼書を貰ったマグルがしめしめと頷く。
「パーティを組むのか」
「人数は多い方が良いだろ? 今回は囚われている場所が分からないから、アールさんがポ帝都の城を吹っ飛ばしたみたいにはできないし」
「ふむ。それで誰を誘う。パーティというのは固定が常だろう」
「暇そうなやつが一人くらい居るよ、お。ほら」
大きな羽を背中に折り畳んでいる。亜人だ。マグルが早速話し掛ける。どうやら話はまとまったようだ。二人で戻ってくる。
「これがアールさん。んでこっちが、」
「俺はヴェル。鷲型の亜人だ。よろしく」
握手する。
「盗賊団について知っていることはあるか?」
「根城があの滝。シィラ滝の上にあることくらいだな。前に見たことがある」
崖を見下ろす。眼下にはシィラの街並みがあった。滝壺から流れる川に沿い、平地を埋めるようにして建物が作られている。
こうして見ると、冒険者ギルドと宿屋を結ぶ道を中心にして発展しているように見えた。そこから少し離れると煙突が三つも突き出た大きな建物があり、その周りには小さな建物が多く密集していた。醸造所らしきものを探すが、ここからは分からない。
「すっげぇイイ景色。なに見えるって、アールさんブドウの木を見てるのかよ。どんだけ好きなんだ」
「ここは諸国連合における二大産地の一つだからな。ワイン通が商業ギルドを立てようと試みたことがあるが、地場の人間に反対され、追い出されていた」
「へぇ。金持ちのやることはスケールが違うな」
「なんせ良いワインはここで消費されてしまうからな。残ったのは大抵がミー都に送られる」
へえ。とマグルが気のない返事をしたところで切り上げる。
「ここはいつも飛行する範囲なのか」
それとも縄張りと言うべきか。
シィラ滝の上へ登るには横から大回りしていく。緩やかな坂が徐々に急になり、最後はほとんど壁だった。帰りは土魔法で直接降りた方が早そうだ。
「そうだ。と言っていいかは分からないな。俺の相棒が飛ぼうとして、よくここに来た」
根城を目指して歩き出す。
結局、盗賊も街へ下りる必要がある。いくら金を奪ったところで使わなければそれはただのガラクタだ。そしてその目撃証言とヴェルの話を合わせれば簡単にだいたいの場所は分かった。本当にどうして放置しているのか、理由を知りたいような聞きたくないような。
「あんたも、その羽が使えない訳じゃないんだろ?」
ヴェルはすっと視線を上にあげた。太陽の方角ではないのに、眩しそうにした。
「――いや。重すぎるのかもな。子供の頃は飛べた記憶があるんだが」
「ふぅん。相方は結局飛べたのか?」
「いや、飛べなかったよ。魔物を狩ってる途中で俺を庇って死んだ」
「そうか……。悪いな」
「いや、珍しい話でもない。冒険者をやっていて、天寿を全うできれば大したものだ」
「そうだな」
マグルは静かに同意した。
「年を取ったら引き際も考えないといけないしな」
「引き際な。考えたことねぇや」
「お前はまだ若いさ」
「ヴェルは何歳だ」
「もうすぐ三十歳だ」
「へえ。ビレステは俺と同い年くらいだ。それと依頼の女は二十代か。どうせ顔は分かんねぇし全員助ければいいだろ」
「そうできればいい」
「あんたは飛ぼうとは思わないのか」
ヴェルは鷲らしく少し前へ、尖ったような顔つきをしている。その顔が真っ直ぐにこちらへ向いた。
「思わないな。失ったものを取り戻そうとすると、大概が碌なことにならない。相棒然り、女然りだ」
「覚えておくよ」
「アールさん、奥さんは?」
「居る。村にな」
「旅してるエルフも珍しいが結婚しているエルフはなお珍しい。奥さんの為に早く帰った方がいいんじゃないか?」
フフン。知らずに笑いが鼻から零れた。
「余計なお世話だ。妻は私を理解しているからな」
惚気話にマグルとヴェルが顔を見合わせ、肩をすくめる。クサい仕草だが、二人の間には通じるものがあった。
しばらく進む。途中で馬車の轍を見つけた。
シィラ滝の上はまるでテーブルのように平たくなっていて、見通しは極端にいい。それでも小さな窪みや崖はあり、盗賊団、たしかヴァベック盗賊団というのものの根城は人目を避けるようにしてそこにあった。
丸い形をした窪地に、同じように丸い建物が幾つか肩を寄せ合う。建物同士は廊下で繋がっており、中心の建物が一番大きかった。馬車が外に繋がれている。
「馬車の轍を追ったらその通りっていうのは隠れる気がないのか。それとも襲ってくるやつがいないっていう自信か」
ヴェルが真面目に言い、マグルが冗談めかして肩を叩いた。
「飛んで索敵しろよ」
ヴェルは口の端を引き、ニヤリとする。鷲的な笑顔だった。
「ここに侵入者が居るぞ! ってお前たちの上をクルクル旋回すればいいんだな?」
「だったら俺は侵入者だ! ってお前を指してやるよ」
このやろ。
こいつ。
「……」
アールが真剣な顔で根城を見ているのに気付いて、ふざけ合っていた二人も顔を引き締める。
「地道に見張りを排除したら、いつかは見つかるだろうな」
「正面から行こうぜ。いや、せめて裏口を探して暴れるか」
マグルが無謀なことを言った。
「暴れたら裏口が正面になるだけだろう」
「つうかビレステはいつまで捕まってるつもりだよ。魔法でなんとかなるだろ」
魔法が使えなくなる手錠もあるが、なにぶん高価だ。要人でもない限り使うとは思えない。
「どうだろうな。魔法を使えば他の攫ってきた人間を殺すと言われているかもしれない」
「そうなると俺たちも線引きする必要があるな」
ヴェルの言葉に、マグルは渋い顔をした。賛成とも否定ともつかない唸り声を出す。
「くそ。あの捕まえた奴から根城のどこに捕らえられているか聞きゃよかった」
全くもってその通りだが仕方ない。そもそも私たちはこんな事態に慣れていない。
「一つ案があるぞ。アールさんがそれほど強い魔法が使えるならの話だが」
ヴェルが静かに提案した。それに二人が頷く。
「悪くない」




