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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
五章

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第58話 虎の猫育て

 じっ。

 シャビィがビレステの持った依頼書を読む。


「ヨルムルって強いの? ご主人サマも倒してたよ」


「さあ?」


 バッとビレステの手から依頼書を奪ったマグルは目を大きくし、無知は怖いなとそっと戻した。


「ご主人サマって、どこに居るの? 貴族の人?」


「違うよそんな嫌な人じゃないよ。私のご主人サマは冒険者で、とっても強いの。とってもとっても強いよ」


「へん。マグルも相当強いよ」


「なんでお前が威張るんだよ。そのご主人サマはどうして緑髪のエルフを探してるんだ?」


「会いたいんだって」


「もしかして知り合いとかか?」


「うぅぅん」


 シャビィは悩む声を音の波形にして口をウニウニと動かした。


「でもアールのことだよね」


 馬鹿、言うなって。とマグルがビレステを肘で小突く。


「うぅん分かんない」


 ついにはゴロゴロと喉を鳴らし始める。

 しまったとばかりに口を両手で抑えたビレステがほっと安堵した。


「シャビィ難しい事覚えてらんないの。それより今から食べるご飯とかを考えたいから」


「まあ悪いやつじゃなさそうだな」


 冒険者だし、犯罪でもしたらベリドのようになる。


「ご主人サマの名前は?」


「アシュ()()


「虎と猫のパーティか。なんつうか面白いな」


「孤児院の近くをね、茶トラの猫がうろついてたよ。可愛かったなぁ」


 ギルドの入口が開き、アールが入ってくる。


「ビレステ、弓を忘れるな。魔法が使えても弓が有用なのは変わらないぞ」


「にゃぁ。緑髪のエルフ!」


 シャビィがいそいそと懐から出した筒をポンと開ける。赤い煙の塊がむわりと出てきて、周囲と同じようにびっくりしたシャビィの尻尾の毛が逆立つ。赤い煙は出口を求め、頭上をくるりと回った後にギルドの扉を抜け、急上昇し空に四散して、シャビィの顔をした花火になった。


「え、なにあれ?」


「シャビィも分かんない。ご主人サマが来るまでお茶しよ。ね、ね?」


「広範囲に魔力を通知させたようだな」


「げぇ。じゃあそいつが来るわけだ。逃げるか?」


「軍人でないなら、ここで()()した方が早い。襲われるのを待つ必要もないしな」


「確かにそうだけど」


 カフェに着く前に、匂いに吸い寄せられたシャビィが屋台でサンドイッチを買ってしまった。

 胸元から出した緑色のがま口は失くさないようヒモを首に掛けている。銅貨ばかりをじゃらじゃらとさせたそこから代金を手渡し、大事そうにまた胸元へしまうとポンポンと確かめるように撫でた。

 カフェに行くと言った張本人がそうしたので、三人もその屋台でお茶を買い、広場に向かう。


「こっちこっち」


 シャビィは日の当たるベンチへ真っ先に向かっていった。手を引かれたビレステもそこに座る。マグルは立った。

 アブラサバを塩焼きにしたサンドイッチだ。ビレステが一口貰っていた。


「どのくらいで来るんだそのご主人サマは?」


 美味しいのか、シャビィは足をパタパタと動かしている。長い爪がサンドイッチに喰い込んでいた。


「もう来ると思う。すっごく早いよ。だってシャビィが背中に乗ってもすっごく早いから」


「なるほど」


 マグルが小声でアールに聞く。ちょっと幼過ぎやしないかと。


「亜人全体がこうではない。頭の出来不出来は人間と同じだ」


「あたしはビレステよ。シャビィも冒険者なの?」


「シャビィは違うよ。でもシャビィとビレステは一緒。私も孤児なの。捨てられて、商会に拾われて、そこでも捨てられたけどご主人サマが来てくれた」


 ビレステの情報は帝国では掴みづらい。となると冒険者はラディッキ王国で雇われたのか。

 アールは嫌な顔が思い浮かんだ。

 まさかな。と思ったがそのまさかである。


「そうなんだ。優しいのねその人。じゃあシャビィも両親を探してるの」


「探さない」


「なんで?」


「だって嫌いだよシャビィ捨てたから」


「そうなのかな」


「ご主人サマもそういう無責任なやつが居るから不幸が生まれるって言ってた。だから見つけたら殺した方がいいって」


「……」


 でも何か理由が有ったかもしれないよ。アールだけがビレステの唇から声にならない言葉を汲み取った。


「シャビィ」


 離れたところで声がした。

 銀色の髪が狼のように逆巻く男が居た。広場は多くの冒険者が行き交う。その男が立つと、他の冒険者はまるで取るに足らないものに見えた。


「嘘だろ。アシュトラって。S級冒険者のアシュトラじゃねぇか!」


「……」


「いやなんか言ってくれよ。あんたらは驚けよ、S級だぞ!」


「そう言われてもあたしは分かんないよ」


「S級の知り合いは何人か居るしな」


「おいおい。冒険者の夢だぞ。あとアールさんはその話を詳しく」


「ご主人サマはね。おしゃべり好きじゃないの。でもシャビィはおしゃべり好き。このサンドイッチと同じくらい好き」


 一口食べては、足がパタパタとなるシャビィは緊張感がない。そのせいでこれから戦う雰囲気が生まれない。


「お前がアールヴァクで、そっちがビレステだな」


 憧れの冒険者に無視され、マグルは内心で肩を落とす。


「一応聞くが依頼主は誰だ?」


 アールは来ると分かった時から詠唱を始めていた。もうほとんど完成に近い。


「プリーニだ」


「げぇっ! またあの人?」


「誰だよプリーニって。俺知らねぇんだけど」


「私の兄だ」


「いやだから誰だよ」


 マグルのツッコミは周りのうるささに掻き消える。


「えええええ。ぜんぜん外見違うし」


 シャビィが突然手を上にあげた。


「はい。シャビィ知ってるよ。お母さんが違うんだよ。異母兄って言うの。お母さんが亡くなって、本家に引き取られてから知り合ったんだって。お父さんは全然家に来なくて、ほとんど知らない人だから大変そうだよね」


「……シャビィ」


「それで他の兄弟にイジメられてたの。でもプリーニだけが仲良くしてくれたんだよ。ご主人サマの魔法はプリーニが教えてくれたの。筋がイイって褒めてくれたから滅茶苦茶頑張ったんだって。シャビィも鼻が利くってご主人サマに言われて嬉しかったから気持ち分かるよ。だからねいっぱい練習して」


「シャビィ。言わなくていい」


「全部言うじゃん」


「ね。あたし関係性が大体分かっちゃった。尊敬するお兄さんに頼まれて仕方なく来たのよね」


「王都に来い。そこで実験をさせる」


「あれなんか違うみたい」


「アールさんどうするんです?」


「来る以上はやるしかあるまい」


「場所を変える」


 アシュトラが言う。拒否する理由はない。村から出て、街道からも少し距離を置いた。


「アシュトラは剣と杖で滅茶苦茶な攻撃型って聞きます。気を付けてください」


 こっそりとマグルが耳打ちした。

 アールはマグルの目を見る。何を言っているんだと眉を寄せた。


「マグルもビレステも参加しろ。三対一だ。手早く済ませる」


「あ。――そうか。アールさん決闘とかそういうの気にしないのか」


 アシュトラも文句を言う様子はなかった。


「ビレステ。後ろにいろ。【魔弾】を使っていいぞ」


「了解!」


「待てよ? ゴリゴリにインファイトのS級相手に()()は俺だけか」


 いつの間にかアシュトラは左手に杖と右手に小ぶりな剣を持っている。真っ白な杖は先が焦げたように黒かった。剣の鍔は翼を象り、明らかに業物だった。

 マグルと対峙した。

 蛇型の魔物のヨルムルとは比較にならない圧。

 どれくらい保たせればいい。いや、何秒保つ?


「ちょっと待った!」


 マグルじゃない。止めたのはシャビィだった。

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