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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
五章

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第56話 白アスパラガスのサラダとオーランドソース

「負傷者を医務室に運べ」


 スルーゼたちは火消しに追われていた。中隊の一人を見つけて指示する。


「ヤーナー補佐官を呼べ!」


「叩き起こしてきます」


 走り去るのを見送る。


「スルーゼさん、瓦礫に埋まっている人が居ないか見てきます」


 ハルキ=サカタ殿は異界の勇者だ。その瞳には義憤が見られた。優しく、真面目な性格は所作や話し振りからも感じる。

 

 どうしようもないのが来ると聞かされていたので安心した。


 異界の勇者は強大な力を持つがその性格に()があるらしい。与えられた部屋から出ようとはせず、訓練もやる気が見られない。言い訳ばかりでまずは性根を叩き直すところから始まると。もちろんそんなのは公式の記録には残らないから、若い頃のスルーゼは眉唾だと信じなかった。実際に指導した者の訓練記録を見るまでは、英雄である勇者がそんなわけないと思っていた。


 だがハルキ殿はスルーゼが子供の頃に思い描いた勇者そのもので、まだ知り合って間もないのに、一緒に居ると心強かった。この人となら任務を完遂できると確信もしている。


「すまないが頼む」


 城は突然の襲撃に慌てふためいていた。しかし指揮系統がしっかり機能しだすと、続々と集まってきた野次馬を整理するまでになっている。


「スルーゼ少尉殿ご無事でしたか」


 塔の近くにいた四人が集まってくる。


「飛んで行った時はいかに悪運殿といえど、もう駄目かと思いましたよ」


 中隊員の心配そうな視線を受け止める。


「私もだ。まさか無傷とはな」


「今回ばかりはその悪運に祈らせてもらいました」


「よくぞご無事で。守って頂いた命、必ずや役に立たせます」


「とにかく今は負傷兵の救助だが、それも落ち着きつつある」


「本部からの指令は」


「待機だ。襲ってきたのが魔族なら、来るのは北の方からだな」


「ハッ。では北を警戒します」


 結局、朝を迎えても襲撃はなかった。ヤーナー補佐官が小走りでやってくる。


「先ほど、フッラ殿の死亡を確認しました」


「ウム」


 あの超巨大魔法による衝撃でヘイズルー殿の研究室が破損、薬品が混ざり合い爆発した。その爆発音はスルーゼにも心当たりがある。かなり大きな音だった。それに巻き込まれたらいかに彼女でも防御しきれなかったらしい。


「それとヘイズルー殿の研究室から、禁止薬物の類が多数見つかったようで」


「処分は免れぬか」


「おそらく」


 ヤーナー補佐官の予想は正しかった。彼は後日、牢に送られることになる。もっと悪かったのは研究計画が露見したことだ。勇者の心臓にあるであろう無属性の魔石を取り出すというもので、それが陛下の怒りを盛大に買った。


「ビレステ殿のことは」


「うやむやになるよう仕向けておきました。元々がおかしかったですから」


「ウム!」


 私の補佐官はこういう仕事ができるのだ。


「今日はこのまま徹夜ですか」


「仕方あるまい。城壁を直すのは土魔法で応急処置ができるが、城の結界は時が掛かる。今は城の魔王使い総出で再構築しているそうだぞ。私の部隊からも借りていったほどだ」


「承知しました。少尉殿秘蔵のショコラでもあればもっと頑張れるのですが」


「ふふ。我々軍人のやる気は魔族が持ってくるさ」


「せめて臣民の喜ぶ顔にして頂きたいですな」


「大隊長殿の笑顔ならあるだろうが」


 魔族が来たら一番に喜びそうだった。大隊長ほど書類仕事が似合わない男もおるまい。


「有難く、そして断固として拒否しておきますよ。では小官も行きます」


 巡回に加わる背中を見送る。はて、とスルーゼの首が傾く。

 どうしてショコラを隠している事を知っているのだ――?


 *


 ビレステの拘留と脱獄がうやむやになったことを知らない三人は、ポ帝都から南にあるシロアス村に居た。既に二つの村を通過している。


「ここまで来れば一安心だよな」


 途中からは馬車も出ていて、移動は順調だった。それにラディッキ王国より道の整備は進んでいるから、歩きやすくもある。


「逃げられはしたが、魔王城からは遠のいたな」


「遠回りでも、ラディッキ王国から行けばよかったね」


「そうだな」


「いやいや、北部地帯を回って魔王城までって自殺行為だろ。ビレステなんてすぐに丸焼きの丸かじりだぞ」


「じゃあこっち来て正解だったね」


「一応諸国連合からも山脈を抜けるルートはあったはずだが問題がある」


「危険なの?」


 宿の食堂だ。冒険者がテーブルを二つ使っている以外は、人もまばらだ。ビレステたちは名物の白アスパラガスのサラダを食べていた。葉物野菜と蒸かしたじゃがいもが添えられている。


「むしろ安全と聞く」


「じゃあ何です」


 上に掛かったソースが美味しくて、マグルは皿をじゃがいもで綺麗にしている。


「場所が分からない。山道ではなく、山脈を穿つように作られた洞窟だ。分かったとしても、諸国連合の王に許可を貰わねばならない」


 ラディッキ王国で発行された通行証は、諸国連合では使えない。


「へぇ。このソースめっちゃ旨くね?」


「ねぇ。あたしびっくりした。これならスノーラもサラダ食べるかも」


 嬉しいこと言ってくれるじゃない。後ろを見ると、シェフの格好をした女性が居た。


「このオーランドソースはね、卵の黄身とレモンのしぼり汁に、肉の脂身を熱して濾したのを何度も繰り返したものを加えるの。あとはそれをひたすら混ぜるだけ」


「手間掛かってんだな。どうりで旨いわけだ」


「諸国連合でも似たようなものは食べたが、ここほどではないな」


「だろうよ。グルメさんたちはどっから来たの」


 ビレステとマグルがどう答えるべきかと思案する中、アールは平然と答えた。


「ポ帝都からだ」


「聞いたわよ。勇者様が召喚されたんでしょ」


 勇者が召喚された?

 確かに前回はラディッキ王国が召喚した。順番は交互なのでホタ帝国が召喚する番だが。あまりにも早過ぎる。魔王が出現するまでこの世界に居ては、それこそビレステじゃないが寿命を迎えるのではないか。


「本当か?」


「召喚の虹が城へ下りたって、この前の新聞では持ち切りだったよ」

 鍋に呼ばれて、シェフの女性は厨房に戻った。


「へぇ凄いね。あたし異界の勇者を見てみたい」


「……」


 これは不味いな。


「勇者かぁ。強いんだろうな。あれ、つうか魔王も居ないのになんで召喚されたんだ」


「残ってる魔族を倒して貰うんじゃないの」


「それは冒険者でもできるぜ?」


「時期が早過ぎることを置いておけば、()()が復活したのだろう。だとしたら、面倒なことになる。魔王城には近づけない」


「え、あたしの魔法具はどうすんの?」


 ビレステの、ではなく正確には借りるのだが。


「勇者が倒すの待つか。さすがに魔王がいる魔王城へ近づかないですよねアールさん?」


 研究したいとか言い出しかねなくて、マグルは恐々と尋ねた。そんなの命が幾つあっても足りない。


「うむ。待つのはいいが、金がない。かといってラディッキ王国へ帰るにも帝国を経由するか。諸国連合から海路で行くしかないから結局金はかかる」


「アールの実家って諸国連合だったよね。しばらくそこに泊まるのは?」


 マグルがやれやれと顔を振っているのに二人は気付いた。


「おいおいお二人さん、金がないって? じゃあやる事は一つでしょ」


 ()()()のマグルにとって、それは本当に簡単な話だった。

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