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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
五章

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第44話 再開する旅路とふんぞりエルフ

 アールとビレステは魔王城へ向かっていた。無属性魔法を対策する魔法具がないか探索する為だ。まずはポ帝都への護衛依頼を出しに冒険者ギルドへ向かった。マグルと名乗る青年が引き受けてくれることになり、一行は国境へ向けてトマッ都を出発する――。



 ビレステが出発する前に挨拶したい人が居ると言うから聞けば、西門前広場にあるカフェまで行くつもりだと言う。


「ここは()()だ。遠すぎる」


「そこのカフェだったら俺がよく行くぜ。後で伝えといてやるよ?」


「ほんとう?」


「任せろ」


 本当だと思う?

 ビレステが小声で尋ねてくる。面倒なので頷いておいた。この程度で嘘はつかないだろう。……忘れることはあっても。


「まずは馬屋だな」


 国境までは馬で行く。自信がないというから、ビレステはアールの後ろに乗せることにした。


「アールヴァクさん、長いから俺もアールさんでいいか?」


「ええ?」


「いいぞ」


「ええ、なんかヤダ」


 ビレステは同年代のマグルを警戒気味だった。お年頃ということか。


「アールさんの馬は二人乗るし、護衛対象だからな。良い馬にしたい」


 そう言って一つ一つの馬房を確かめた。マグルはビレステの反応に頓着していないようだ。


「うん。良い馬だ。首が太くて肩が大きい。魔物にもビビらずに走れると思う。アールさん、いいよな?」


「うむ」


「魔物が来たら、基本は逃げるぞ。大丈夫。馬の足じゃ追いつかない。――よしじゃあ出発しよう」


 門を抜け、しばらく平たい道を行けば平原の切れ間を通る。そこからは整備の甘い道が続く。

 ビレステは離れていく王国を名残惜しそうに振り返る。


「グレナさんとまた会えるよね」


「どのみち帰りは王都に寄らねばならない」


 魔王城で魔法具を持ち帰ったらそれを届け出る。それに研究結果も共有しなければならない。


「アールさんは馬の扱いに慣れてるな。エルフはみんなそうか?」


「どうだろうな。移動に馬を使うのが好きなものも、歩くのが好きなものも居る」


「俺たちと一緒か」


 マグルは慣れた様子で道を先導していく。途中で何度か魔物と遭遇したが、馬はきっちりと走ってくれた。


「国境だ。ここからは歩きで行く」


「イタタ。お尻痛い」


「歩けるか? 休憩したいならここでして行こう」


「いい、大丈夫だから」


「まあまあ。そう避けなくってもいいじゃんか。こっから長い。仲良くしていこうぜビレステ」


 邪気のない笑顔に、少しだけビレステも警戒を緩める。それでも一日目の野営を終えるまで、ビレステはあまり喋らなかった。


 距離が近付いたのは、二日目にマグルが昼食を奢ってくれた時だ。マジックバックから出したのはバタサーモンのパニーニだった。生のバタサーモンにチーズ、ちぎったレタスに甘い岩塩とオリーブオイルが振りかけられ、パンにサンドされている。歩きながら食べるので、ちょうどいい。


「美味しい!」


「だろ?」


「チーズが旨いな」


「お、さすがにグルメだな。東門の屋台で売ってる。そこは俺の故郷のモッツァ村から仕入れたチーズを使ってるんだよ。味が濃いだろ」


「ワインが飲みたくなる」


「ポ帝都ではじゃがもつを試してくれ。赤ワインが合う」


 お礼に夜はビレステが作った料理を振舞う、つもりだった。共同作業になったのはでも、転んだ先の金貨だった。


「肉はもう焼けたんじゃないか」


「しっかり焼かないと危ないじゃん」


「赤いのが残ってる方が旨いんだって」


「ダメダメ。お腹痛くなっちゃうもの。あ、お野菜切らないと」


「焦げるぞー?」


「水入れて蓋して弱火にして」


「ほいほい。なぁ、アールさんは手伝わなくていいのか?」


 耳打ちするようにマグルが聞く。


「あそこで偉そうにふんぞり返ってるだけだよ」


 書いた論文を見直していた。客観的な疑問を見つけ、反駁し、自ら修正するのは骨の折れる作業だ。妻のアイゼが居ればと思わずにはいられない。


「――手伝うことがあれば、手伝う」


 マグルは肩をすくめる。その動きにビレステが笑った。


 旨い旨い。ガツガツと食べるマグルにビレステが聞く。料理にも使った火はそのままにして、焚火代わりにしている。昼は熱いが、夜は少し冷える。帝国領は寒暖差が大きい。


「ねぇ。なんでマグルはポ帝都に行きたいの?」


 一瞬だけ、マグルの明るい表情に陰がさす。その陰は濃いが内に秘めたものではない。どこか夜明けを待つようだった。


「まぁ、隠すことでもないけど。気分の良い話じゃないぜ」


 迷うように言葉を探しながら、マグルは語る。私たちは歩いていて、時間はあった。


「ひどいね。そのベリドって人」


「ああ。もしその名前を聞いたら教えてくれないか」


 殺すつもりだということは、ビレステにも分かる。


「もちろん。アールならやっつけてくれるよ。ね?」


「窃盗で殺す訳にはいかない」


「窃盗じゃないよ。だって殺人未遂でしょ」


「店からリンゴを盗んでも殺人未遂にはならない」


「そりゃそうでしょ」


 マグルとビレステが顔を合わせて頷く。


「ただそのリンゴを失ったことが決定的で主人は店を畳み、それから自殺したとしても。我々はリンゴを盗んだ事実しか裁けない」


「……」


 火が揺らめくのに合わせて、夜に浮かぶ顔の輪郭も移ろう。

 マグルは黙っていた。しかし彼の中の意思は変わらないだろう。


「そうかなぁ。だって薬を飲まないと死ぬ人の薬をとったら、盗んだのは薬じゃないと思うけど」


「ルールの裏に理不尽があるのは仕方ないことだ。完璧なルールを作り、大衆が認めて初めてそれは機能する」


 そして、人々がそんなルールを()()しているようには見えない。


「アールってばこんな風に小難しいこと言うのよね」


「研究者なんだろ? 俺のイメージ通りだけどな」



 ポ帝都に着いた。疲れは感じるが、難所はこれからだ。大陸を横断する巨大な山脈を越える必要がある。


「じゃあ俺はここで。あんたらは宿屋を探すだろ?」


 ポ帝都の広場に着いた。しっかりと中に入ってから依頼達成の確認をするマグルにアールは好感を持った。その辺りが適当な冒険者も多いと聞く。


「門まで一緒に行こうよ」


 まあそれくらいなら。マグルは素直に頷く。この頃になるとビレステもマグルも気安い様子で話していた。


「駄目だ」


 屈強で、勤勉な門番がきっぱりとそう言う。


「なぜだ。許可証があるのだから通すべきだろう。王国と帝国の取り決めがなくなった訳ではあるまい」


 申請が必要かもしれない。そう予想して先に門を訪れたところだった。


「その通りだが、それはあくまで王国での許可証だ。帝国での通行を保証するものではない。現在、山脈を越えて魔王領へ行く道は封鎖されている」


「どうして? あたしたち魔王城に行かなきゃいけないの」


「魔物が不自然に活発化している。調査隊が戻るまでは通行を拒否する」


「つまりは安全の為か。では危険と承知して通りたい旨を書くから、許可証と併せて管轄の部門に尋ねることは可能か」


「尋ねるのは可能だ。通行許可が出ることもあるだろう」


 三人はため息を吐いた。この門番こそ、ルールにある理不尽そのものだ。

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