オマケ④ ロフンちゃんは身の程を知りたい
お知らせ
オマケエピソードは公開して数日間は無料掲載予定です。
以降はカクヨムのサポーター限定記事にて配信しております。
それに伴い、オマケエピソードは②から順に、日数を掛けながら、カクヨムのサポーター限定公開へ移行します。
「ぎゃあああああ!」
ロフンはレッドドラゴンと対峙していた。小さな体から伸びる細い足を必死に動かし、死の気配が濃密なブレスの火線を避ける。
C級冒険者が手に負える相手じゃない。短縮魔法で相殺あるいは防御できるような威力ならどれほどよかったか。
ロフンさぁん。
明らかに場違いな声色が、優しく洞窟の中を響く。ピクニックしてんじゃねぇんだぞこっちは。
*
――三日前。
起きて身支度を整えると、ロフンは冒険者ギルドに向かう為に部屋を出る。穏やかな気候が気持ちよく、二度寝しないよう(ちょっとした)にするのは大変だった。
「おはよう」
「エカリー。今日は依頼か」
頷いたのは、隣室のエカリー。風魔法と小刀を使う冒険者だ。D級冒険者である彼女は最近、また新しくパーティに入れたらしい。
ギルドまで一緒に行く。依頼を探していると受付で呼ばれた。なんでも、あるパーティが水属性の魔法使いを募集しているから話を聞いてみたらとのことだ。
「助かるよロフン。レッドドラゴンは俺たちが弱らせるから、水魔法でとどめを刺してくれ」
目の前には場慣れした様子の冒険者が居る。三十歳くらい。二人共A級冒険者だった。直剣を持っている男がアーク。細身に似合わず、仰々しいメイスと大盾を持っている女性がシャルレ。シャルレは聖職者だった。巡礼していた折に色んな事があって、こうしてアークと共に冒険者をしているらしい。
「王都の北部、山脈に洞穴があると聞いたが。それが本当なら騎士団の仕事じゃないか? 無駄飯野郎どもがついに本性を現したか」
「どうだろう。国防の観点からすればそうだと思う。けど攻めてきているわけじゃないからな」
「私たちはその穴までわざわざ出向いて、国の脅威にさえなる魔物にこんにちはする訳だ」
初めは口の悪いロフンに面食らっていた二人も、半日立てばこの通り慣れてしまった。
「その通りです。頑張りましょう。私たちが倒さないと、近くの村や町が危険ですから」
「わたしは、わたしの命が心配だよ」
C級冒険者の自分が二人に付いていけるとは思えない。
「「大丈夫大丈夫」」
能天気に頷く二人だが、さすがにギルドがB級とそれ以下を分けた意味はある。それ以上とそれ以下。そこには実力差というには簡単すぎる溝があった。
道中は何もやることがなかった。イノシシ型の魔物、スリズルが集団で向かってきた時はアークが一人で飛び出した。
「俺がいく」
「おい。わたしの守りはいいから、援護した方がいいんじゃないか」
シャルレは焦った様子もない。
「あれくらいなら大丈夫ですよ」
アークは汗一つ掻かずに群れを蹴散らした。もう皮肉にも思えない。振り返った彼が指をさす。
「アウズンプラだ」
横を見る。耐久性の代名詞みたいな魔物だ。こちらに角を向けて突撃して来る。シャルレが正面から駆け込み、メイスを振り下ろした。鉄が骨を砕く音がして、アウズンプラは足をピンと伸ばし、そのまま倒れる。一撃だ。大盾で勢いを殺す必要もなかった。
そして王都を出て二日。ようやくドラゴンの居る洞穴の前まで来た。遅いので、今日は野営し、翌朝に討伐する。
「レッドドラゴンの心臓を狙ってくれ。そこが水魔法に弱いから」
「ロフンさん頑張って!」
シャルレがあんまりにもうるさいので、髪を梳かせている。背中に回った彼女は座り込み、永遠とブラシを動かした。
さすがはA級冒険者。マジックバックの容量は桁違いで、野営とは思えない。寝具は潤沢。料理も品数豊富ときた。
「やるだけやる。お前らがお気に召す魔法を撃てるかは分からないがな」
「髪がさらさらで綺麗だわ。ねぇ、結んでもいい?」
「いやだ」
「お願い」
「そんなに結びたいならアークのチン毛でも結んでろ」
まあ。とシャルレが大袈裟な顔で口に手を当てる。まるで自分の口からとんでもなく悪い言葉が出たみたいに。
「いけませんよロフンさん」
撤回しなさい。と後ろから圧がくる。
「うるせぇ。イイ子ちゃんの相手は疲れる」
「いけません、いけません」
「ははは。賑やかでいいなあ。アシュトラのせいで貧乏くじかと思ったけど案外悪くないね」
“灰返り”アシュトラは二つ名のついたS級冒険者だ。左手に杖、右手に剣の魔法剣士。防御をする気のない、攻め一辺倒の戦い方でどんな敵も瞬時に倒してしまうことからその二つ名がついた。元々の言葉は染料が足りずに色がさめる意味で、そこから防御が足りないこと、相手を灰に帰すことが文字られた物騒な名前だ。
「知り合いなのか」
「まあ顔を知ってくるくらいだよ。普段は王宮とか貴族とかの依頼を受けていて、だから今回も手が回らなかったらしい。コネがあるんだろうなぁ」
羨ましそうにアークが言った。貴族の依頼なら、難易度に関わらず金も相当貰えるのだろう。
「アシュトラさんだったら、一人でも余裕そうですよね」
こいつらがそう言うほどだ。世の中にはとんでもない者がいて、世界は広いと改めて思う。
翌朝。洞穴を降りていくと広いところに出た。レッドドラゴンの影響か、熱い。
「お前らの水筒は余ってるか」
水を魔法の種火にして少しでも威力を高める。シャルレは自分とアークに支援魔法をかけた。
火属性の【ストレンジ】
支援魔法は他者に掛けるのは難しいらしく、ロフンまでは手が回らない。
加えて土属性の【ディフェンド】を自分にだけ掛けた。合計で三つも魔法を発動しているの自体、凄いことだ。
目を合わせ、頷く。アークが突っ込んだ。飛ばれたら面倒だとばかりに翼を切る。右の翼が裂ける。尻尾が振り回され、アークが退く。
死角に回ったシャルレが後ろからメイスを振り下ろした。支援魔法なしでアウズンプラが一撃なのだ。その威力たるや、レッドドラゴンの背中を砕く。かと思われた。鱗が機能し、打撃を受け流す。それでも肉を打つ音がここまで聞こえてきた。
ロフンは弱るまで待機だ。詠唱は既に終え、あとは発動を待つばかり。
体を隠せる岩が点在し、少しずつレッドドラゴンに近づいた。わたしの魔法の威力では心臓を突かないと致命傷に届かない。だから確実に狙える距離まで近付きたかった。
凶暴な爪が走り、嚙み砕こうと顎が落ちてくる。その上別の方向から尻尾。二人で戦っているとはいえ、やはりレッドドラゴンは強敵だ。
アークの剣が首を切り裂いた。よろめく。
チャンス。二人の合図はないけど、ここだと思った。
ロフンは即座に魔法を発動し、心臓の位置を狙う。
レッドドラゴンは切り上げられた首を前に戻す。その時にはもうブレスと呼ばれる火炎を放つ攻撃の予備動作が終わっていた。
大きな目が、新たな脅威であるロフンを捉える。
【アクアジャベリン】
やるしかない。水の大槍が突き刺さる。翼で防がれた。やばい。
すぐ背後、余波の熱風が襲う。
叫び声を上げながら逃げた。さっきまで隠れた岩は消失した。口が角度を変え、横薙ぎにロフンを追う。
「逃げろ」
逃げてるわバカが!
「ロフンさぁん。こっちこっち」
小鹿が母鹿を見つけたように、一目散でシャルレの後ろへ隠れる。大盾は岩を溶かすブレスを耐えた。相当な素材と魔石を組み込んでいるのだろう。
シャルレは火の勢いで後退することなく、受け続ける。アースが今度は喉元を切った。悲鳴を上げながら暴れる。とんでもない体力だ。まだ動くのか。シャルレがメイスで足を砕く。アースが腹に剣を突き刺した。抜いて後ろへ下がる。レッドドラゴンはまだ暴れる。もう悪夢としか思えない。
喉元を切られたせいか、漏れたブレスが自分の鼻を燃やしている。それでも構わず攻撃してきた。地面を伝い、熱がここまでくる。アースは追尾するそれを避けながら、シャルレに向かってジャンプする。大盾に打ち出されるように宙へ飛んだ。体を反転させ上から剣を角に振り下ろす。折れた。
「今だロフン!」
使い慣れた【アクアランス】だった。どれだけ詠唱に時間が取れるか分からなかっ
たから。覚悟を決め、しっかりと立ち止まり、着実に心臓へ狙いを定める。逃げるのを抑えつけるようにシャルレがメイスで殴りつけた。
貫通力を上げた水の尖槍が心臓を貫く。沈んだ。
「やったな」
「ナイスよロフンさん」
ぎゅう。シャルレが抱き締めてくる。支援魔法が掛かった力は強く、人形のようにロフンは振り回された。
「もう。こんなに可愛いのに強いんだから」
「またパーティに呼ばせてくれ」
上位の冒険者と組むのは、もっと私が強くなってからにしよう。がっちり回された腕が解けない。諦めて言う。
「絶対に嫌だ」
そう心に決めた。
*
酷い目にあった。帰っても疲れが取れなくて、こんな時間まで寝てしまうとは。休みがてら、少し簡単な依頼でもしよう。
部屋のドアを開けると、隣室のドアが開いた。ちょうどいい。エカリーと依頼をすれば――。
髪が少し伸びているが、見覚えのある青年の顔がそこにある。思わず悲鳴が漏れる。どうして災難は続くのか。
「げぇっ」
いつも私の稚作を読んでくださる方、そしてここまで読んで下さった方へ、有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたらリアクションや星で評価していただけなら更新する励みになります。(ページ下部のところでお好きなリアクション、星の数をタップすればできます)
星の数は正直にしていただけると大変助かりますし、コメントで今回は微妙、今回は良かったとか主観で構いませんので書いてくれたら参考にさせていただきます。




