第40話 氾濫の原因
初っ端のロフンの魔法はクリーンヒットしたがそれだけで倒れはしなかった。傷口にエッダが追撃する。かなりの血は流れたけど、まだ致命傷じゃない。
振り落とされたエッダが猛然と突っ込む。今度は氷壁登山でもするように、斧を交互に刺して脇腹を登った。無茶苦茶な戦闘スタイルだ。どうりでもう一人前衛を増やす話になるわけだよ。後衛を守るという考え自体、すっぽ抜けている。
「ふん」
マグルは視界の端にロフンを捉えながら群れのスコルから倒していく。こいつら、こっちが近付けば遠ざかり、一定の距離を保とうとしやがる。
それでも。
大剣の先端で頭を割る。
マグルの動き出しの方が早い。着実に数を減らした。ロフンはもう一度さっきの魔法を放つつもりらしい。決まれば、いくらデカブツでもやばいだろう。
どこからか矢が飛んできた。マグルを囲む一匹が倒れる。シブだ。横から抜けていったのが一匹。ロフンが危ない。後ろ足を切り飛ばした。体勢の崩れた好機を他のスコルが突いてくる。転がりながら避けて、なんとか立ち上がる。
キングスコルが吠える。
「来るぞ!」
天に向けた口先から魔法陣が現れた。赤色。火の玉が噴火するように降り注ぐ。ちょうどあったスコルの死体を掴んで、盾にする。
魔法は群れも自らもお構いなしだ。背中に乗ったエッダも狙われている。たまらずに落ちていった。
目が合った。
追撃がくる。また魔法陣。今度は緑色。
土魔法だ。
足元を注意する。キングスコルの足先で地面が隆起したと思ったら、地割れが急速にこっちに向かってくる。ギリギリでよけた。次はどう来る。こちらから攻撃すべきか迷う。
後ろのロフンは距離があるだけ避けるのに余裕がある。
「エッダ!」
ロフンが叫んだ。詠唱が終わったみたいだ。キングスコルにまた飛び乗ろうとしたところをキャンセルする。
自分の脅威が分かるのか、キングスコルが反応して突っ込んでくる。ロフンは魔法の発動で隙ができる。避けれない。
マグルはその場で大剣を横にして、全身に力を籠める。シブの矢が飛んできて、狙い澄ましたように目に当たった。勢いが落ちる。
鼻先を受けた。体が浮いた。足が地面から離れて、数メートル後ろでまた足が着く。不思議と恐怖は感じなかった。
キングスコルの片目はまだロフンを見ている。
もう一度。衝撃でずり退がる。横に逃がせ。斜めに引きながら斬った。体は指示せずとも飛ぶ。腰を空中で捻り、受けた圧を回転に換えた。ロフンが魔法陣を展開したのが見える。肉を抉るような音がして、次に大きな物体が地面を転がる振動が伝わった。
「うっし。いいじゃねぇかマグル」
エッダが近付いて来る。シブも戻ってきた。
「やっと倒れたな」
「こんだけデカかったもんなぁ」
「解体はどうすんだ。人を呼ばないとどうしようもないぞ」
ロフンは顔に汗をかきながら言った。目もとろんとしている。最大出力の魔法を二回もやれば、そりゃあ疲れるよな。
「あとで村人を呼ぼう」
「調査を続けるのか?」
魔物の氾濫は明らかにこいつが原因だ。どっかから流れてきて、土着の魔物が押し出されたのだろう。
「一応なぁ。半日探してなかったら引き上げる」
しかし他の可能性を潰さない。エッダは良いリーダーだ。
「よし。時間短縮だ。マグルが村人を呼んで、ここまで護衛してこい。わたしたちは調査を続行する」
どうだとエッダを見る。そのエッダがマグルを見た。
「俺もそれが良いと思うぜ」
調査にシブは必要として、リーダーのエッダも残る。どっちが雑用をするかと言えば、ロフンより俺の方が護衛は向いている。簡単な話だ。
「じゃあ頼めるか」
「任せろ。十人くらいは必要だよな」
「もっとだ。連れてこれるだけ連れて来い。肉は村と山分け。素材類はあたしらがいただく」
「任せろ」
道はシブに任せきりだったので、大体の方角を聞いて出発する。迷わないよう枝を折り、時折振り返って自分が歩いた道を確かめる。真っ直ぐ歩いているつもりでも、森ではどうしても曲がって歩いてしまう。
道に合流したらもう簡単だ。
結局、八人を連れてきた。肉を半分村に供与すると言ったら、もうお祭り騒ぎだ。これであのスコル肉が不味かったら、暴動だな。と他人事みたいに思う。キングスコルの大きさを説明すると、村人たちは勝手に計算して荷車をかき集めた。これなら余裕だろう。
*
エッダたちと村人を連れて合流した。随分と時間が掛かったのは荷車が思うように通れなかったからだ。
ここでは大まかに解体して、村で細かく解体するらしい。
「なにか見つかったか?」
聞くと三人はなにかを厭う表情をした。
「見つかったが、関連がありそうでないようなって感じだ。続きは明日の朝にやろう」
「勿体ぶるなよ」
「そんなつもりはない。だったらちょっと見てきてもいいぞ。ロフン付いて行ってやれよ。マグルの意見も聞きたい」
キングスコルの群れだ。まだ相当数のスコルが残っていても不思議じゃない。エッダとシブは残って村人の護衛と、野営の準備をするようだ。
「おいこっちだ。さっさと来い」
案内する人間を置いていくのはどうなんだ。
二人で獣道をいく。距離は遠くないらしい。
「むぐ」
掻き分けた葉が跳ね返り、ロフンの顔に当たる。前を代わった。邪魔な葉をナイフで払いながら進む
それにしてもどうして案内がシブじゃなくてロフンなんだろう。
強く降った夕立が止むように、歩きにくい獣道は脈絡なく途切れた。
大きなクレーターだ。長いところで五十メートルはあるだろうか。楕円形のそれは風雨に磨かれ、刺々しさを失っている。
「なんだ? 戦闘の跡か?」
上から丸い大きな物体が着弾したような。
それでいて、少し古い。今回の氾濫には関係なさそうに見える。




