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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
四章

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第36話 パーティタイム

 飛んで距離を離そうとするアルクヴォの胴を突く。浅い。

 距離を取ろうとする魔物には近づけ、というのは冒険者の基本だ。たぶん飛び道具が来る。


「こっちだ」


 フアが巻き込まれない場所へホルニを移動させる間、バルダーが弓を引く。


「飛ばせるな。逃げるぞ」


 上空から隙を窺われ続けると形勢は悪い。


「んな無茶な」


 懐に飛び込む。右から、翼についた爪が襲いかかる。大剣で弾く。爪を壊そうとした。左から来る。防御は間に合わない。避ける。

 空気を裂く音。後ろから飛んできた矢が羽に突き刺さる。

 地面を蹴り、気持ちより一歩深く踏み込む。怒りの叫びを上げたアルクヴォの足が飛んできた。マグルが吹っ飛ぶ。


「ぐうう」


 苦悶の声が口から洩れたけど、そこまで痛くはない。


「よくやった」


 胸を蹴られた。鎧は爪を通していない。アルクヴォはふらっとしている。マグルが袈裟斬りにした体からは血が流れた。深手だ。

 バルダーは限界まで引き絞った。大弓が壊れるんじゃないか。

 翼を振る。射出された鋭い羽毛。幾つかが矢に当たる。反れた。


 大きく翼を広げた。マグルは別の角度から走り込んでいる。振り下ろした大剣は、空を切った。

 飛んだアルクヴォはこちらを睨みながら、たまねぎ山の頂上へゆったりと舵を切った。

 横で狙いを定めたバルダーが弓を撃つ。偏差は見事だった。けど体を翻したアルクヴォには当たらない。二つの山に区切られた空が、今はやけに広く見える。


「くそ、逃げられた」


 バルダーも次矢を番えようとした腕を下げた。


「どうする。追うか?」


「卵は山頂だろうな」


 アルクヴォは空中で旋回した。勢いを溜めるようにして。旋回で描く円が小さくなる。


「マグル!」


 ホルニを避難させ戻ってきたフアが盾を構える。庇われたマグルの限られた視界にアルクヴォの目が見えた。()()を狙っていた。

 中くらいの盾に足の爪が深くめり込む。アルクヴォの傷口から血が飛び散った。自由落下の勢いとその体重による蹴りだ。

 フアが横にふっ飛び、道を外れた奥まで転がる。


 矢がアルクヴォの頭へ突き刺さった。骨まで貫通している。マグルが渾身の力で振る。攻撃して即離脱しようとしたが、フアが間に入ったお陰で感覚がずれたらしい。

 手応えがあってから、アルクヴォが倒れた。

 フアを探すがいない。端に生えた木の枝に掴まる手を発見した。


「フア!」


「終わったかぁ? 引き上げてくれ」


 道を外れた先は崖になっているらしい。木がミシミシ言うから、慌てた。


「幹を掴め」


「ああ? なんだってぇ?」


 枝がぽっきりと折れる。崖の下へ手を伸ばす。

 落ち始めたフアをぎりぎり掴んだ。一息つきたいところだが、支えられない。落ちると思って掴んだ枝はどう考えても細かった。ずるっと崖の先へ落ちたマグルは、咄嗟に剣を突き立てた。


「うおおおおお」


 がりがりと土を削りながら落ちていく。右足が届いて、踏ん張った。落ちる速度は減ったがやはり落ちている。


「ぐむ」


「ゔっ」


 大丈夫か!?

 上からバルダーの声がする。崖は十メートルくらい。低くて助かった。


「大丈夫だ」


 マグルが返事をするとバルダーが安心したように息をついた。ホルニが同じように顔を突き出す。


「そこから続く道を行けば、途中で合流しますよ」


「上のそっちは二人で大丈夫か?」


「ああ」


 マグルとフアも歩き出す。


「じゃあ俺たちも行くか」


「そうだな」


「まったく。あそこで屁こくか普通」


「我慢できなかったんだろ」


「ケツに栓してやればよかった」


「口から出てくるんじゃないか?」


「おいフア。その速度じゃあ酒が逃げるぞ。――フア?」


「いや、大丈夫だ。ちょっと足首が曲がらねぇ」


「なんだそりゃ。折れたのか。言えよ」


「うるせぇ」


 マグルはストラップを外し、大剣をフアの背中にくくる。メイスと盾を腰に下げたフアは結構重そうだけど、なんとかなるだろ。


「ほら」


「くそっ、悪い」


()()だな」


「そう言われるから嫌なんだ」


「あれ。お前治療魔法使えるだろ」


「骨がやられてる。足を固定して、半日は安静にしないといけない。変な風にくっつくと厄介だ。擦り傷とか、切り傷ならすぐ治せるんだがな」


「なら今やれよ」


 別に一日延びようが変わらない。


「いや、山を越えるべきだ。もうポ帝都も近いしな」


「ううん。そこまで背負えってか」


 軽口がないあたり、痛むみたいだ。なるべく揺らさないように歩いた。



 道が後ろから合流してくる。待っていると、二人が歩いて来た。


「バルダー。足をやっちまった」


「骨か。じゃあ治せるところだけ治せばいい。マグルは少し手伝ってくれるか」


「ん? ああ」


 フアから大剣を戻してもらってバルダーに続く。ホルニは了解しているようで、フアと残った。

 来た道を少し戻り、山頂へ続く岩棚をよじ登った。


「卵を処理しないと。後が面倒だ」


「なるほどね」


 バルダーは心得があるのか、すぐに見つけた。大剣で潰そうとするのを止める。マジックバックへ慎重に収納した。


「ギルドが高値で買い取るからな」


「おお。ラッキー。一石二鳥ってわけだ」


「マグル」


 岩棚を飛び降りようとして、振り返る。


「フアを助けてくれて有難う」


 バルダーの目は帽子で陰になっている。


「よせよ。今はパーティだろ」


「臨時のパーティではなかなかそうもいかないさ」


 交代でフアを背負い、ポ帝都の郵便ギルドに着いたのは受付が閉まるぎりぎりだ。ポ帝都の郵便屋で貰った紙の証印を渡した。あとはトマッ都で同じことをすれば依頼完遂だ。


 冒険者ギルドで素材の換金をした後、宿へ行くバルダーたちと別れた。マグルも宿を決め、再び街へ出る。――まずは情報屋か。

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