第36話 パーティタイム
飛んで距離を離そうとするアルクヴォの胴を突く。浅い。
距離を取ろうとする魔物には近づけ、というのは冒険者の基本だ。たぶん飛び道具が来る。
「こっちだ」
フアが巻き込まれない場所へホルニを移動させる間、バルダーが弓を引く。
「飛ばせるな。逃げるぞ」
上空から隙を窺われ続けると形勢は悪い。
「んな無茶な」
懐に飛び込む。右から、翼についた爪が襲いかかる。大剣で弾く。爪を壊そうとした。左から来る。防御は間に合わない。避ける。
空気を裂く音。後ろから飛んできた矢が羽に突き刺さる。
地面を蹴り、気持ちより一歩深く踏み込む。怒りの叫びを上げたアルクヴォの足が飛んできた。マグルが吹っ飛ぶ。
「ぐうう」
苦悶の声が口から洩れたけど、そこまで痛くはない。
「よくやった」
胸を蹴られた。鎧は爪を通していない。アルクヴォはふらっとしている。マグルが袈裟斬りにした体からは血が流れた。深手だ。
バルダーは限界まで引き絞った。大弓が壊れるんじゃないか。
翼を振る。射出された鋭い羽毛。幾つかが矢に当たる。反れた。
大きく翼を広げた。マグルは別の角度から走り込んでいる。振り下ろした大剣は、空を切った。
飛んだアルクヴォはこちらを睨みながら、たまねぎ山の頂上へゆったりと舵を切った。
横で狙いを定めたバルダーが弓を撃つ。偏差は見事だった。けど体を翻したアルクヴォには当たらない。二つの山に区切られた空が、今はやけに広く見える。
「くそ、逃げられた」
バルダーも次矢を番えようとした腕を下げた。
「どうする。追うか?」
「卵は山頂だろうな」
アルクヴォは空中で旋回した。勢いを溜めるようにして。旋回で描く円が小さくなる。
「マグル!」
ホルニを避難させ戻ってきたフアが盾を構える。庇われたマグルの限られた視界にアルクヴォの目が見えた。油断を狙っていた。
中くらいの盾に足の爪が深くめり込む。アルクヴォの傷口から血が飛び散った。自由落下の勢いとその体重による蹴りだ。
フアが横にふっ飛び、道を外れた奥まで転がる。
矢がアルクヴォの頭へ突き刺さった。骨まで貫通している。マグルが渾身の力で振る。攻撃して即離脱しようとしたが、フアが間に入ったお陰で感覚がずれたらしい。
手応えがあってから、アルクヴォが倒れた。
フアを探すがいない。端に生えた木の枝に掴まる手を発見した。
「フア!」
「終わったかぁ? 引き上げてくれ」
道を外れた先は崖になっているらしい。木がミシミシ言うから、慌てた。
「幹を掴め」
「ああ? なんだってぇ?」
枝がぽっきりと折れる。崖の下へ手を伸ばす。
落ち始めたフアをぎりぎり掴んだ。一息つきたいところだが、支えられない。落ちると思って掴んだ枝はどう考えても細かった。ずるっと崖の先へ落ちたマグルは、咄嗟に剣を突き立てた。
「うおおおおお」
がりがりと土を削りながら落ちていく。右足が届いて、踏ん張った。落ちる速度は減ったがやはり落ちている。
「ぐむ」
「ゔっ」
大丈夫か!?
上からバルダーの声がする。崖は十メートルくらい。低くて助かった。
「大丈夫だ」
マグルが返事をするとバルダーが安心したように息をついた。ホルニが同じように顔を突き出す。
「そこから続く道を行けば、途中で合流しますよ」
「上のそっちは二人で大丈夫か?」
「ああ」
マグルとフアも歩き出す。
「じゃあ俺たちも行くか」
「そうだな」
「まったく。あそこで屁こくか普通」
「我慢できなかったんだろ」
「ケツに栓してやればよかった」
「口から出てくるんじゃないか?」
「おいフア。その速度じゃあ酒が逃げるぞ。――フア?」
「いや、大丈夫だ。ちょっと足首が曲がらねぇ」
「なんだそりゃ。折れたのか。言えよ」
「うるせぇ」
マグルはストラップを外し、大剣をフアの背中にくくる。メイスと盾を腰に下げたフアは結構重そうだけど、なんとかなるだろ。
「ほら」
「くそっ、悪い」
「貸しだな」
「そう言われるから嫌なんだ」
「あれ。お前治療魔法使えるだろ」
「骨がやられてる。足を固定して、半日は安静にしないといけない。変な風にくっつくと厄介だ。擦り傷とか、切り傷ならすぐ治せるんだがな」
「なら今やれよ」
別に一日延びようが変わらない。
「いや、山を越えるべきだ。もうポ帝都も近いしな」
「ううん。そこまで背負えってか」
軽口がないあたり、痛むみたいだ。なるべく揺らさないように歩いた。
道が後ろから合流してくる。待っていると、二人が歩いて来た。
「バルダー。足をやっちまった」
「骨か。じゃあ治せるところだけ治せばいい。マグルは少し手伝ってくれるか」
「ん? ああ」
フアから大剣を戻してもらってバルダーに続く。ホルニは了解しているようで、フアと残った。
来た道を少し戻り、山頂へ続く岩棚をよじ登った。
「卵を処理しないと。後が面倒だ」
「なるほどね」
バルダーは心得があるのか、すぐに見つけた。大剣で潰そうとするのを止める。マジックバックへ慎重に収納した。
「ギルドが高値で買い取るからな」
「おお。ラッキー。一石二鳥ってわけだ」
「マグル」
岩棚を飛び降りようとして、振り返る。
「フアを助けてくれて有難う」
バルダーの目は帽子で陰になっている。
「よせよ。今はパーティだろ」
「臨時のパーティではなかなかそうもいかないさ」
交代でフアを背負い、ポ帝都の郵便ギルドに着いたのは受付が閉まるぎりぎりだ。ポ帝都の郵便屋で貰った紙の証印を渡した。あとはトマッ都で同じことをすれば依頼完遂だ。
冒険者ギルドで素材の換金をした後、宿へ行くバルダーたちと別れた。マグルも宿を決め、再び街へ出る。――まずは情報屋か。




