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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
四章

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第35話 屁っちゃらです

「あれがたまねぎ山か?」


 見えてきたのは先が尖った小山だ。道はそこを掠めるように真っ直ぐ通っている。


「違うぜマグル。あれは偽たまねぎ山だ」


「地殻の変動で少し前にできたらしい」


「地殻の変動って?」


「たまに世界が揺れるだろ。あれだよ」


「へぇ。それであれが」


 地面が揺れて山が出来る。それがよく分からなかったマグルは生返事する。


「新たまねぎ山とも言いますよ」


 後ろからホルニが補足した。パイン街道を歩くこと三日目。今日の内にたまねぎ山の麓まで行く。明日そこを越えたら、ポ帝都はすぐだ。

 野営地に着いた。石の竈が三つも残されているのは、みんながここで一泊するからだろう。


「山は大きくないが。体をしっかり休めた方がいい」


 バルダーが忠告してくれる。

 言われたマグルは見上げた。頂上は見えない。少しあけた隣には大陸を二分する巨大な山脈が横たわり、道はそこの山間へ伸びていく。

 岩だらけの原野を進んだつもりが、いつの間にか山脈に近づいていたらしい。大きな自然を目の当たりすると自分の存在をちっぽけに感じた。


 どうしてだろう。圧倒されているのか。もしあそこの山肌に立ったとして、それは山脈とマグルじゃなく、ただの山脈だった。存在が埋もれる、それが怖いのか。

 視線を巡らす。視界の果てまで伸びていく山脈は高さも、その厚さも物差しで測れなかった。なにかの間違いでこっちに倒れたりしないよな……。


 寝ていると起こされた。()()()の時間だ。


「起きろ」


「バルダー」


 余程眠いのか、マグルを起こしてすぐに寝てしまった。焚火の近くに座る。

 魔物の気配はない。一応、野営地の周りを歩いて確かめた。それからは体力を削らないように座って休むことにする。


 ……ようやくここまで来た。待ってろよ。


 考え事をしていると朝はすぐだった。


「おはようございます」


「ホルニ。早いな」


「見張りお疲れ様です」


 小さな袋から干しぶどうをくれた。酸味にさっぱりと頭が起きる。


「仕事だからな。……当たり前だけど、ホルニはこれから仕事なんだよな」


 そもそもポ帝都には郵便配達で向かっているのだ。


「たまにする、遣り甲斐のある仕事ですね。まぁ、私は手紙を運ぶだけですが」


 そうは言うが、自分の仕事を誇りにしているホルニの横顔は眩しい。


 出立の準備が整う。


「よし。山を登る前に言っておく。前にも言ったが鳥型の魔物が出る。厄介なのがアルクヴォだ」


「マグルより頭がいいぞ」


「おい」


「冗談じゃない。奴らの縄張りで見つかるとかなりの距離を追い回されるから、もし見たら取り敢えず隠れる。戦闘はやむを得ずだ」


「バルダーの弓で先制攻撃すりゃいいじゃねぇか」


 やっぱりアルクヴォ以下だな。とフアがくさすので、肩を組む振りをしてのしかかってやる。


「あいつらがたまねぎ山に来るのは産卵のためだ。親がいないと、ここら辺に住み着いて動くものを積極的に襲う。何もしなければ、勝手に親子で山脈の向こう側へ飛んでいってくれる」


 雲に触れようかと聳える山脈を飛んで超える。マグルには上手く想像できなかった。実はそいつの嘴はドリルで、山を向こうまで削っていくと聞かされた方がまだ納得できる。


「放置が安定だな。了解」


 いつもの隊形で進んだ。ニワプ鳥を倒してから、随分と信頼されたのが背中に伝わる。お陰でマグルも前だけに集中できた。


「マグルは酒飲むよな?」


 フアは喋っていないと息が出来ないらしい。


「部屋にビールの樽を置きたい。酒場のでかいやつを」


「ぎゃはは。バルダー、やっぱりこいつ馬鹿だぜ」


「ポ帝都の名物は数多くあるが『じゃがもつ』は試した方がいい。酒が進む」


「へえ。バルダーが言うなら安心だ。フアは馬鹿舌そうだしな」


「んだとぉ」


「どんな料理なんだ?」


「肉を煮込んだ余り汁で、丸ごとのジャガイモとモツを煮た料理だ。モツはあるものを入れるがどれも旨い」


「ちょうどマグルさんが狩ったニワプ鳥の肝を入れたのが、私のおススメです」


 ホルニまで言った。ポ帝都には遊びに来たわけじゃないけど、気になる。


「たまに良いワインを煮込み汁に入れる店があるが、俺からすれば邪道だな。あの安っぽい味が旨いんだ」


 フアが酒を飲みたそうな声を出す。まだ出発して一時間くらいだった。


「ホルニ、干しぶどうを分けてくれ」


「いいですよ。フアさんに回してください」


 バルダーがフアに渡す。


「おい。それで酔えないぞ」


「うるせぇ。お前とはトマッ都に戻り次第飲み比べだ」


 俺に勝てると思ってんのかよ。とばかりに笑って見せる。

 その笑いはすぐに引っ込んだ。薄い殺気が、辺りを包むようにしている。


「隠れるぞ」


 ちょうどあった茂みに飛び込む。後ろの三人もすぐに続いた。


「どうした」


「分かんねぇけど、たぶんそのなんとかだ」


「アルクヴォな」


 翼が空気を打つ音がする。

 近い。

 バレたか?


 さっきまで四人が歩いていた道に降り立ったのは、両羽で四メートルもあろうかという怪鳥だった。

 息を飲む。

 どうせならその大きさも教えておいてくれよ。

 視線で気取られないよう、足元に目を置く。アルクヴォは点検するように羽を嘴で軽くつつき、周囲を威嚇するように鳴き声を一つ飛ばす。


 音の反響を確かめているわけじゃないよな。首をキュッ、キュッと窓を拭くように勢いよく振る。それから地面をついばむ。


 何をしているのかと思えば、フアが食べようとした干しぶどうだ。

 慌てて落としたのか。

 全員でフアを見る。バツが悪そうに横を向いた。

 いまは見つからないことを祈ろう……。


 茂みの中は少しでも動くと音がしそうで、バルダーも弓を準備できなかった。かなりの間そうしていた。窮屈で、肩が凝る。

 アルクヴォが暢気に羽を休めているので腹も立ってきた。もうなんもねぇからさっさと行けよ。


 さあ飛び立とうと上を見た瞬間。

 凄い音で()を放ったやつがいた。


 いや失敬。とばかりにホルニは目を瞑り、手を合わせる。


(((ホルニー!!)))


 三人の心の叫びが重なる。

 アルクヴォが明らかにこっちを注目した。近づいて来る。


 我慢しきれずにマグルが飛び出す。先制攻撃が最強の攻撃であり防御だ。

 羽を広げ、距離を取ろうとする。マグルはそれよりずっと早く、疾風になって接近する。

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