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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
四章

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第34話 お調子者と冷静君

 郵便屋で話を聞くと、明日の朝には出発するそうだ。二人と聞いて不安だったのだろう。マグルを怪しむこともせずに、パーティの話をしてくれた。

 フア、バルダーと名前を聞いたが、知らない人物だった。仕方ない。当日の待ち合わせ場所で待って、参加できないか聞こう。


 マグルは保存のきく食材を揃え、大剣の手入れをして夜を過ごした。まだ一度も袖を通していない防具を着てみる。ぶっつけ本番で何かあっても大変だ。色んな動きをしてみる。

 前の防具と遜色ないどころか、むしろ体に馴染む。心の中でベルントに礼を言ってから眠った。



 集合時間より余裕を持って行くと郵便配達人と二人の男が話していた。ロン毛の男と緑色で唾広の帽子を被った男だ。既に集まっていたらしい。出発していたら危なかった。


「あ、マグルさん」


 郵便配達のホルニが手を振る。二人の男が振り返った。ああ、ギルドで見たことあるな。でも確かこいつらって――。


「よお。マグルだ。帝国への護衛依頼と聞いて、ちょっと頼みがあるんだけど」


 ロン毛の男が口笛を吹く。


「いやあラッキー」


 まだなにも話していないのに、ロン毛の男は肩を組んで来た。


「あんた前衛だろ?」


「フア。まずは自己紹介だろ。俺はバルダー。依頼に参加したいんだって?」


「そうだ。いいのか?」


「もっちろんだぜ。俺はフアだよろしく」


 肩を組んで来たロン毛の男が言った。


「報酬は三等分でいい。ただし、しっかりと前衛をやれよ」


 バルダーが静かにそう言った。報酬は最低限でもいいと、交渉材料にするつもりだったからこれは助かる。


「ああ。よろしく」


 話がまとまったところで配達人のホルニが行きましょうかと声を掛けた。詳しい話は移動しながらだ。


「マグルはその大剣が武器だよな。魔法は?」


 フアが言う。お調子者らしい。初対面でも空気が明るくなるから助かる。


「魔法は一切使えない。けどこの剣で全部片が付くぜ」


「ははは。マグルは帝国に行ったことないだろ」


「? お前らはどうなんだ」


「俺たちは既に二回行ってるぜ、なあバルダー」


「ポ帝都までの道は山道が多く、鳥型の魔物が出没する」


「まじか」


「気にすんなって。飛んでるのはバルダーに任せろ。俺がバルダーを守るから、マグルは地上の魔物をやればいい」


「分かった。バルダーとフアはなんの武器だ?」


「俺は見ての通り弓矢だ」


 バルダーは大きな弓を馬に括り付けている。相当な威力がありそうだ。


「俺は盾とメイスだな。怪我をした時の為にも、俺に優しくしろよ?」


「てことは回復魔法が使えるのか、こりゃ頼もしい」


「その分だけ攻撃魔法は温存する。魔物に出くわしたらバルダーが弓を撃つ。襲ってきたら俺とお前で追い払う」


「よし。最前線は任せろ」


 馬は帝国の国境までだ。バルダーの言う通り山道で、馬が通れない場所もあるからだった。馬屋に返して、国境で冒険者証を見せるとすんなりホタ帝国へ入国した。


「ホタ帝国まではどのくらいだ」


「パイン街道を歩き続けて、だいたい四日だな。ほとんど一本道だから迷うこともない」


 四日か。マグルはちょっとうんざりしたのを隠す。


「よく二人でこの依頼を受けたな」


「ああ。元は三人だったんだが前衛が一人怪我してな」


「そうか。付いててなくて、大丈夫なのか?」


 ベルントのことが頭をよぎる。そうだよな。ギルドで見た時は三人組だった覚えがある。


「それほどの怪我じゃねぇよ。一週間もありゃ全快さぁ」


「お前ら、おしゃべりも良いが、体力が持たなくても見張りは変わらないからな」


 パイン街道はごつごつとしている。上がったり下がったりと短い距離での起伏が激しい。歩きづらかった。護衛対象である、配達人のホルニを時々気に掛ける。

 袈裟懸けのバックを二つ、両肩に掛けた彼は景色を楽しみながら歩いていた。そりゃそうか。何度も通っていて、歩き慣れている。


 道を外れたところに水場と平たい土地がある。今日はここで野宿だ。先客が一組いて、話したが悪いやつらではなさそうだった。見張りを交代で出すことになる。


 朝になり、起きる。水を飲もうと水場へ行くと、極彩色の小鳥が嘴で水面を叩いていた。あれで飲めているかは分からない。


「およ。早いなマグル」


 フアも顔を洗う。


「バルダーは?」


「あいつは朝が苦手なんだ。もう少ししたら起きてくるよ」


「ふうん」


「間違っても起こすなよ。一日不機嫌になるから」


「ほほお」マグルが笑うと、フアもにやりと笑った。「いや、俺はそんなことしないぜ」


「だよな。だよな。安心したよ」


 悪ガキ同士、心の波打ち際でキラキラと共鳴するものがあった。

 バルダーが起きるまでに朝食を済ませる。ようやく出発する頃には、先にいたパーティはもうラディッキ王国へ出発した後だった。


「そろそろ遠くにたまねぎ山が見えてくる」


「魔物が出るか?」


「そうだが難所だ。足を滑らせるなよ」


 相変わらず地面に岩が多く、緑の少ない道を歩いていると殺気を感じる。魔物だ。一番前を歩くマグルが足を止めると、三人が一斉に足を止めた。マグル、フア、バルダー、ホルニの隊列だった。


 どこからだ。


()()!」


 バルダーの声で、防御が間に合う。横にした大剣でかぎ爪のついた足を受け止めた。空中から落下するような動きはその分だけ威力も高くなる。


「ニワプ鳥だ。地上からも来るぞ」


 フアの言う通り、着地した鳥がマグルへ突進してくる。翼を広げれば大きいけど、体はそこまで大きくもない。


 バルダーが大弓を引く。ギリギリとしなる音をさせた。短弓とは違い、番えた矢が大きい。迫力があった。

 援護射撃したいのに、マグルが邪魔だ。こういう時、やり慣れているパーティなら少し立ち位置を変えてくれる。


「無理するなよ!」


 フアが叫ぶ。中盾がバルダーの視界の端に映ると、安心感がある。いつでも撃てるように、神経を研ぎ澄ませた。


 マグルは突進してきたニワプ鳥を正面から受け止める。

 首辺りに剣を押し付け、嘴で攻撃されないようにした。体の大きさは同じくらい。大剣にぐんと圧力が掛かる。

 片足を下げ、足を前後させる。ずりずりと押され、地面を削りながら勢いを殺した。腕に力を目一杯入れて押し返した。ニワプ鳥が羽をばたつかせ、小さくジャンプして足のかぎ爪を使う。

 飛ぶ()()を逃さなかった。

 大剣を斜め下に構える。全身を使って切り上げた。首を狩った勢いでマグルの体が半回転する。


「おお。やるじゃんあいつ」


 フアが感嘆し、バルダーも弓を下ろす。

 ニワプ鳥に頭が綺麗に飛ぶ。倒れた体の、首の断面から血がドクドクと流れる。土の乾燥した道によく溶けた。


「おお、ニワプ鳥を一撃ですか」


 ホルニも驚いている。


「フン」


 満足そうに息を吐いたバルダーが、肩を組んだマグルとフアに近づく。二日目の行程も順調に追えた。たまねぎ山を越えればポ帝都はすぐだ。

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