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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
三章

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第28話 命のどんぶり勘定エルフ

 辞める様子のないプリーニの説得を諦め、アールがビレステに近づく。


「時間を稼げ」


 ローブの下から杖を取り出す。棒切れみたいな杖だが、神樹の枝を素材にしていた。


「詠唱してるって本当なの?」


「ああ。すぐに完成する」


 周りの人間も感心したり囃したりと、止める様子がない。見世物側から見る光景は不快で、人間の醜悪さをぐつぐつと煮込むような熱気に溢れていた。


 火の矢に自働反応して【障壁】が出る。その度にビレステはひどく悲しい気持ちになった。ネズミがどれほど死んだのか、筒の中は分からない。もしかしたら全て死んでいて、今は寿命を消費しているのかもしれない。

 恐怖が膨らみ、押し潰されそうになると、口が勝手に助けてと呟こうとした。助けなんて来ないのに、期待してしまう。その矛盾に名前を付けるとしたら()()だった。


 パシリ。


 アールはビレステと手を繋ぐ。驚いた顔をするビレステを立ち上がらせた。


「アールやめて! 寿命減っちゃうよ」


「どうせ持て余す」


 詠唱まではもう少し掛かる。プリーニが気付いた通り、事前に始めておいて正解だ。


「衛兵。団長を呼べ。反逆者だ」


 見当違いも甚だしい。

 その上、魂胆も分かりやすい。大事にしたいようだがそうはさせない。


「【魔弾】は撃つなよ」


 ビレステに言うと同時に、衛兵がドアを開ける。入ってきたのは兵募に居た男、カノートだ。今はしっかりと鎧を着こんでいる。肌に馴染んでいるのか、動きに変わりはなく重さをまるで感じさせなかった。


「魔法を使うぞ!」


 プリーニがカノートに叫ぶ。アールを指差していた。

 さっきから使っているのはお前だろうが。

 カノートもこちらを認めたようだ。筋肉のある体に刈りこまれた白髪。相対すると、威圧感がある。ハテナを形作るように片眉が上がった。


「手を出すな。王の周りを固めよ」


 他の騎士に指示をしてから、腰の剣を抜く。迷わず突っ込んできた。

 雷のような鋭い斬撃がアールに襲い掛かる。

 目の前に【障壁】が現れ、剣を防ぐ。


 この一瞬前、例えようのない『何か』がビレステと繋いだ手から伝って来た。


 ――心の底じゃない。

 上でもなくて、もっと内側のところ。そこにちくりと針で刺されるような痛みが走る。痛みは次の瞬間には消え、刺されたところはまるで元から無かったようにその感覚を失った。


 これが寿命を減らす感覚か。

【障壁】はまさに魔力の物質化らしく、物理的な剣も弾いてくれた。ビレステの魔力は持たないと思ったが、詠唱はどうにか間に合った。


「もう魔法を使わないよう、下を向いていろ」


「本当に大丈夫なの?!」


「問題ない」


【フレイムボール】

【アースボール】

 アールが杖をポン、ポン。と二回振る。夏の終わりまで収穫されなかったスイカくらいの大きさの球体が二つ現れる。一つは火の球で、もう一つは王宮の地面をくり抜いて作られた土の球だ。

 火球がプリーニへ飛ぶ。


「魔法ごと破壊してくれるわ!」


 即座に反応して火の矢を放ったが、火球は打ち消されるどころか、速度を落とすことなく突っ込んでいった。

 プリーニの魔力防護ごと破り、右肩を燃やす。それから周囲の兵を火の球が攻撃していく。


「ぐはあ」


 広間を一周した火球は倒れたプリーニの腹へ追撃する。

 即座に反応したのはカノートだ。様子を見るので少し距離をとっていた。

 アールへ一歩で近づき剣を横に払う。衛星のようにアールの周囲を回る土球が剣の行く手を塞ぐ。

 土球で弾かれたことに、カノートはまたしても驚いた。


 アールが杖を動かすと火球は糸でも付いているかのように戻ってきて、カノートを後ろから攻撃した。どういう理屈か、カノートは少し上半身をよじるだけでそれをぎりぎり避ける。最小限にも程がある動きだ。目はずっとアールを見ている。

 アールは土球を前からぶつける。剣で弾く。火球が横から来た。それも難なく剣で弾く。

 弾かれ、天井近くまで飛んだ土球を二つに分裂させる。双方向から襲わせた。杖は一本でもアールは器用に球を操作する。


 カノートがすかさず突っ込んでくる。防御に使った土球を攻撃に転用した。この時を見計らったのかもしれない。

 剣筋が黄色く煌めいて、アールが寸前まで立っていた地面を抉る。遅れて、轟音が鳴った。


 アールは研究者とは思えない、滑らかなステップで避けながら、背中へ追いついた土球で再度攻撃する。振り向いたカノートが二つの土球を一閃した。

 砕かれた土球はまた一つの球へ修復され、アールの衛星軌道へ戻っていく。

 しかしカノートはその猶予は許さなかった。

 後方を切った勢いでそのまま回転するように移動し、アールの横をとる。両手で持っていた剣から左腕を離し、死角から襲う火球を受けた。左腕が火に炙られるも顔色一つ変えないまま、右手だけで剣を薙ぐ。


 何をしても致命傷どころか、行動を奪える気がしない。『城壁』の二つ名は伊達ではないということか。

 土球は間に合わない。アールが体を屈め、すんでのところで避けた。緑色の髪がぱらりと数本落ちる。――ドアの開く音が響く。


「何をしている!」


 騎士に連れられて来たのは前代の王だ。


「はっ」


 カノートは剣を抜き身のまま直立した。周りの騎士も同じようにする。戦う空気ではなくなったみたいだ。魔法を解除こそしないが、足元へ下ろす。


「説明せよ」


 前代の王が広間に向かって言うと、その場に居た人々の吸う息で空気が重くなった。


「父上。無属性魔法を見ようとしたのですが」


「お前は黙っておれ。このような事態になるまで何も言わないのなら、今さら口を開くな。カノート!」


「はっ。説明します。暴れている者が居ると聞き、私が入った時にはプリーニ魔法長官がエルフと娘を攻撃していたので、エルフを制圧しようとしました」


「ではプリーニ。なぜ攻撃した」


 治療魔法を受けていたプリーニが急いで立ち上がる。アールたちを見て、にやりと笑った。

 さて、どんな言い訳がくるのやら。

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