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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮


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第2話 クソ長エルフ

 広場から離れた場所に、平屋建ての木造の家がちょこんとある。アールとアイゼの家だ。学校は広場へ向かう途中にある。



 学校といっても、孤児院の横にある空き地に大きなテーブルとベンチをいくつか据えただけのものだ。そこで大人が色々と教える。



 文字は孤児院の院長であるボラが。護身術や剣術、魔物の知識は村長のビゼイル。算数は雑貨屋の奥さんに時間が出来たら教えている。アールは魔法を教えた。



 カリキュラムらしきものは当然ない。雨が降れば授業はないし、先生役が忙しかったら授業もなくなる。



 みんなで村の子供を育てよう。無理なくね。

 というスタイルだったから、種が飛んできて偶然生えたトマトを育てるように。なんとなく始まって、そして何となく続いている。



 ちなみに、今まで子供の出席率はまちまちだった。

 だが王立魔法研究所から来たアールが魔法を教えるようになると、親たちも子供を積極的に行かせるようになった。

 これが無料なら、さあ起きて顔を洗っていってらっしゃい。になるわけだ。




「先生来たよ!」


 今日は少年少女が混じった八人くらいの生徒数。何人いようがアールの気分は変わらない。

 授業は暇潰しであり、そして現実逃避でもあるからだ。


 王都にある研究所をクビになってから、なんだかやる気が起きない。短縮詠唱が出来ないという、下らない理由でクビになったせいだ。


「「おはようございます」」


 元気な声に手で応える。


「今日も魔法陣に刻む術式の勉強だな。それと授業終わりの魔法練習はビレステにしよう」


「はあい」


 すでに大人と言ってよいビレステは孤児院の子供だ。



 焦げ茶色の髪を肩の上で切り揃え、大きく丸い目はくるくると表情を変える。可愛らしい女の子である。


「魔法は魔力を使って行使する。正確には魔力により術式を魔法陣に刻み、それを起動させるわけだ。魔法陣に術式を刻むことを詠唱という」


 難しい話をしているつもりはなくても、子供たちにとってはそうではない。

 親の希望なんて、いらなくなった泥団子をぽいっと投げ捨てるように、子供たちは周りの子にちょっかいをかけたり、好きに発言した。


「術式ってなんですか」


「先生、短縮魔法を教えてよ」


「やべぇ、母ちゃんに言われてた洗濯忘れたかも」


 アールは混沌とした授業風景でも動じない。聞いてもいいし、聞かなくてもいいと思っていた。


「術式は、魔法の説明書だな。どんな魔法にするかを魔法陣に刻む。そうしたら魔法陣がその通りにやってくれる。だから複雑な魔法ほど術式は長くなるし、魔法陣も大きくなる」


「魔法陣にはなんて書けばいいの」


「そうだな……」


 分かり易く教えるのは難しい。アールにとっても魔法は難しいものだ。それを子供に噛み砕いてあげるのは、ある程度の熱量がないとできない。


 テーブルの一番奥に座るビレステは、爪を点検したり前髪をいじったりしている。緊張しているのかもしれない。




「どこから魔法を出すか、そしてどんな大きさでやるのかだ。気を付けないといけないのは、自分の限界以上に魔力を使う魔法陣を作っても魔法は発動しない。悪ければ暴発して危険だ。意識を失ってそのまま死んでしまう人も多くいる」


 ざわついたところで、術式の説明をまた始める。


 魔法陣に書くべき術式は、偉大な先人たちが既に作ってくれている。あとはそれを覚え、組み合わせるだけだ。アールのようにオリジナルの術式を混ぜる人もいる。


「よし今日は終わりだ」


 用事がある子供はぱっと帰っていく。


「なあ。短縮詠唱やりたい」


 男の子がアールのローブの裾を掴む。


「やめなよ。先生は短縮詠唱できないんだよ」


 別の女の子が割って入った。


「だって格好いいじゃん」


「術式を覚えるのが嫌なだけでしょ」


 女の子が反論する。

 アールは二人の頭を撫でてやった。


「短縮詠唱は威力が弱いぞ。それに詠唱してでっかい魔法陣があった方が格好いいだろう?」


「うぅん」


 納得いってない様子だ。


「仕方ないな。いいか。例えば」


 アールは意識を集中して術式を頭の中で刻み始める。


「まず、短縮詠唱は手から発動する。それは魔法発動の座標を省く為だ。きちんと詠唱すれば発火の位置を指定し、そして綿密に出力を既定することだってできる」


「うん?」


「どんなことが出来ると思う?」


「分かんない」


 考える素振りも見せずに男の子は言った。

 女の子はじっとアールの顔を見つめている。


「魔法は自由で、美しいものだ」


 頭の中で詠唱を並行する。


「でも危険だって言ったよ」


 女の子が遠慮がちに言った。


 危険と自由。そして美しさ。それらは相反しない。


 でもそれを子供に言ってもなかなか理解できないことくらい、教師としては未熟なアールも分かっている。


「危険だ。それだけ色んな使い方が出来るということでもある」


「ねえまだ?」


 男の子は魔力の流れが見えているのか、アールがさっきから詠唱しているのを理解しているらしい。


「もう少しだ」


「詠唱クソ長エルフ」


 楽しそうに男の子が言った。どこかの大人が言ってるのを聞いたのか?

 ふふふ。

 アールの口元が笑う。



 子供じゃなかったら魔法でぶっ飛ばしているところだ。よかったな坊主?



「短縮詠唱は魔力の放出に属性を付加した程度だ。もちろん、熟練の魔法使いなら別だが。とにかく、術式を自分で作ると、こんなこともできる」


 ピンと立てた指を前に一度振る。

 空き地に魔法陣が浮かんだと思ったら、小さな火柱が上がった。

 いや、作られた。


 炎は規定された高さ、幅で燃えている。炎というより、赤いボックス。そんな感じだった。


「すげぇ」


「それからこんなこともだ」


 さっきの炎から少しだけ距離を置いて、もう一つ赤いボックスができた。


 次々と炎の赤いボックスが現れる。

 横棒や、宙に浮かしたり。


 退屈そうにしていた子や、地面に棒で絵を描いている子の興味も集まってくる。


「あ、『炎』よ。文字だわ」


 アールは「炎」の文字を魔法の炎で作って見せた。

 元気な歓声が湧いた


 最初に作った炎のボックスからゆらゆらと表面が揺れて、やがて普通の火柱に戻った。ちろちろと頭に行くにつれ細くなり、風に揺れる。

 アールが手を払うように動かすと、全ての火柱が一斉に消える。


「もう帰りなさい。勉強したことはもう一度頭の中で思い出すようにな」


 散っていく子供たち。

 その奥からとぼとぼと近づいてくるのが一人。前髪を指で抑えるように撫でている。


「アール」


「始めるか」


「ううぅ。あんなの見せられた後だと嫌だなぁ」

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