第22話 台パンエルフ
「魔力量は、高めではありますね」
1700とある。魔法を使えない人が5くらいで、駆け出しの魔法使いが1000程度だから悪くはない。魔力量は魔法を使っていけば上がる。どこまで上がるかはその体質に寄るから、魔力量が多い人間を魔法使いにおける天才と位置付けられる。宮廷魔法使いクラスになると5000以上は簡単にいく。
「ま、普通ね。それで得意属性は?」
風のマークが薄く出る。マークが濃く出るほどに適正は高い。
「無属性はなさそうですが、本当に使えるのですか?」
「だって使ったし。ねぇあたしにも見せてよ」
アールとグレナの間からにょっきりとビレステが顔を出した。
「そもそも私たちじゃ無属性のマークが分からないわよ。前回の勇者召喚はずっと前でしょ?」
「もしかしたらプリーニ所長なら分かるかもしれませんね。それか前の魔法長官なら確実にその場に居合わせたでしょう」
「でも魔法を得意としていたのはもう一つ前の勇者じゃなかったかしら」
「そうですね。帝国で召喚された勇者です。ただ、最初から使えるかどうか分からないので調べるはずです。異世界では魔法が使えないのが一般的だそうですし」
「へぇ。それは初耳ね」
「適正があるかどうかはどうでもいい。それよりも調べることがある。ビレステはあっちに立ってくれ。そこでいい。グレナ、簡単な魔法を当てるんだ」
「いやいや。あたし無属性魔法が出るか分かんないよ? そんな朝の挨拶みたいにおはようされたら、おはようし返すみたいな。ねぇグレナさん?」
「じゃあ、当たったらごめんね」
「グレナさん? そんなことしないですよね?」
「私も見てみたいの!」
短縮詠唱した【ファイア】を発射する。拳ほどの火の玉が放たれた。
「ぎゃあ、裏切り者ぉ」
悲鳴と共に白い魔法陣が作られる。その先で【障壁】が現れた。
アールはそれを確認する前から、待機させた【アースウォール】を発動した。障壁の裏、ビレステの鼻が擦れるくらいの距離で薄い壁がせり上がる。
「すごいなあ本当に無属性魔法じゃないですか。術式に書いてあることは見えましたか? こっちからは横になっていて分からなかったですよ」
「見えたけど。なんか適当だったわよ」
「はい?」
「自分を守る。としかなかったわね」
【障壁】を出す位置は手で指定していた。しかしその大きさや厚さの指示もなく、きちんと自分を守れるだけの魔法を発動できているのは不思議だ。短縮詠唱ですら、もう少し術式は長い。
「術式については忘れない内にメモしておいてくれ。ビレステ、もう一度魔力鑑定球に魔力を流してみなさい」
「なるほどねぇ。アールヴァクさんそういう事ですか」
カダイが得心したとばかりにまた魔力鑑定球を使える状態に戻す。
「ほい」
ビレステが手を置き魔力を流す。鑑定球が光った瞬間、ビレステは群がる研究者三人組によって無残にも弾き飛ばされる。またもや蚊帳の外だ。
「魔力を使ってるわ」
鑑定球には1000とある。つまり一度で800ほどの魔力を使ったことになった。
「うむ」
「寿命を使うというのは間違った風説でしたか」
「え、そうなの? よかったぁ……」
「あの時、倒れたのはスコルに襲われた心労だろう。命を狙われたのだから無理もない。ボラの傷跡も酷かったしな。――では次だ」
「げ」
「ここまで来たのだ。色々と試さないと損だろう。【魔弾】をやってみろ」
「なにそれ」
「スコルを倒した時のやつだ」
アールが出した分厚い【アースウォール】に向かって手を伸ばす。どうにかこうにか出そうとしたが、ビレステが顔を赤くしていきむばかりだ。
「ふん」
「スコルだと思ってみろ」
「ふんんんんん」
欲しいのは吐息じゃなくて【魔弾】なのだが。
「能動的に使えるわけじゃないみたいね」
「そうだな。【障壁】の魔法陣だけ出せるか?」
アールが振り返るとちょうどビレステがふらつき、白目になる瞬間だった。倒れる前になんとか受け止めた。あの時と同じように、唇の色が薄くなっている。
「馬鹿な」
【障壁】を一度発動しただけだ。しかも魔力は残っている。それなのに。
「部屋へ運びましょう」
「ここは片付けておきますからどうぞ」
カダイを残し、グレナと二人でベッドに寝かせる。
「あれ、アール」
「気絶したようだ。休めば回復する」
「……じゃあ寿命を使っていたってこと?」
「魔力は使っていた。いいから寝ろ」
寝る前から寝相が悪いのか、落ちている枕をビレステの頭に敷いてやる。
グレナは自室に引き上げた。部屋に戻るとアールはバックの奥に入れてあるマジックバックから自分の論文を取り出す。容量は少ないが、ペンとインクを入れるくらいなら十分だ。そもそもアールは身軽なエルフだった。荷物は少ない。
なぜだ。
魔力を使っていることは判明した。実際、【障壁】からは魔力を感じた。あれは魔力の物質化だった。ではビレステが倒れたのをどう説明する。魔法陣を作り、魔力を利用し魔法を発動する。そこまではなにもおかしくない。無属性魔法はそれだけじゃないというのか。ルルビーの時も無属性魔法を使ったが倒れてはいなかった。疲れも影響しているのかもしれなない。体調に左右されるのは最大魔力量も同じだが。
ノックされていることに遅れて気付いた。グレナだ。
「進捗はどう?」
「難しいな。倒れるほどの生命力、寿命を使っている。それを覆す説が思いつかない」
「詰まってるなら飲みに行かない?」
「遠慮する。まだ考えることがあるからな」
文机に向いたまま、こちらを気に掛ける様子はない。こうなったらテコでも動かないことをグレナは知っている。裸になって後ろから抱きついてやろうかとも思ったけど、大人しく帰った。仕方ない、後で食事でも持っていってあげよう。
アールは指先に小さな火を灯した。それを盥に溜めた水へ投じてお湯を支度する。
火魔法は火が傍にある方が効果は強い。水魔法は周りに水があった方がいいし、空気は湿気ていた方がいい。魔法は周りの環境を種火とすることで強くなる傾向があった。逆にその環境から離れるほどに効果は弱まる。そういった環境がないから実証できていないが、まったく土や岩がない場所では、いくら魔力があろうと土魔法は使えないだろう。少なくとも私にはイメージが湧かない。
そう考えると魔法には種火が必要であり、ある基準より種火が多ければ効果が高まる。そう整理できる。
無属性魔法における種火はどうだ。発動者の生命力と仮定するならば、やはりビレステの状態に説明が付いてしまう。いやまだ情報が少ないだけだ。――しかし解析を進めてなおその結論に至るならば
ドン。拳を振り下ろして机を叩く。
「そんなものは美しくない。私は認めない! ……それじゃ魔法というよりまるで、呪いじゃないか」




