オマケ② ロフンちゃんは自分に合った防具が欲しい
トマッ都の冒険者ギルドは賑わいの中で夢と挫折が折り重なる。成功する人間は一握りだが、それでも冒険者を目指して人々はやってきた。
壁の花になっている女の冒険者もその一人だ。女に近づいた一人の冒険者が話し掛けた。男の後ろでは三人のパーティメンバーがニヤニヤしながら事の成り行きを眺めている。
「ロフンよぉ。意地張るなって。ほら、行こうぜ」
「失せろ。他のパーティを待ってんだよ」
青い髪は水属性の魔法との融和性が高くなると言われている。実際ロフンの得意な魔法は水属性に偏っていた。他の魔法は初歩魔法程度で、戦闘に使えるとは言い難い。
「足の速いスコルの討伐は魔法使いサマにはちょっと難しいか?」
「それはお前らだろうが。ランクに比べてちまちました討伐しか出来ねぇヘタレどもが。不相応な冒険者ランクと一緒に股間に付いた使えない棒も返却したらどうだよ? それにわたしはどんなに暇で死にそうでもヘタレとはいかねぇ。暇に殺されたほうがまだ楽しい」
「チッ。相変わらずよく回る口だな。お前、このまま俺たちの誘い断ってると、このギルドに居られねぇぞ?」
男たちは最近、B級に上がった冒険者パーティだ。
「はあ? 寝言は寝て言えよ。ああ。どうりでこんな何度言っても分かんねぇアホなのか。起きろよ。おい、起ーきーろーっ。ママに起こされないと起きれねぇってか。お前のママはこんなに小っこくねぇだろ?」
広いおデコにタヌキみたいな丸い目はまばたきするたびにパチリと効果音が鳴るようだ。そんな可愛らしい顔からは、およそ想像できない言葉の羅列が口から濁流のように溢れてくる。それがロフンという女冒険者だった。
「てめぇ舐めすぎだな。ちょっと甘やかしすぎた。来いよ。痛い目見て学ばせてやるからよ。ついでにその口の使い方をな。ソロのC級冒険者だって尾ひれが付いてっけど。他のパーティに寄生してるだけじゃねぇか」
プチ。ロフンのおデコに血管が浮く。持っている杖の先端に水の球体が現れた。顔くらいの大きさの水球は中が凄い速度で渦巻いている。
「だめだめ。なにやってんの。ギルド内は魔法禁止だよ」
間に入ってきたのはベルントだ。遅れて、マグルが男の冒険者と対峙する。
「おい。女の子イジメて楽しいかよ」
冒険者ギルドの中での出来事だから当然、周りには冒険者が多くいる。ロフンと仲の良い冒険者も野次馬に回っていたのには勿論理由がある。この時のベルントとマグルはまだトマッ都に来て二か月だった。だからロフンの実力を知らなかったのだ。たとえB級冒険者四人が掛かってきたところで、返り討ちにあうだけだ。
「邪魔するってことは殺されてぇみたいだな」
「やれるもんならやってみろよ」
マグルは拳を握り直し、胸を張る。
ガタン。冒険者ギルド受付の奥の扉が開く。人を無言にさせる緊張が走った。
「なにじゃれてんだ」
騒ぎにギルドマスターが下りてきた。たったその一言で野次馬は解散になった。四人の冒険者も、大人しく依頼を見に行く。
「おい」
げしり。ベルントの尻をロフンが蹴る。
「へ?」
「余計なことしやがって。せっかくあいつらから吹っ掛けてきたところだったのに」
こうしてロフンとベルント、マグルは出会った。
それからはなんだかんだと会って話すようになり、パーティを組んで討伐依頼もした。ロフンはちょっかいを掛けてきた四人パーティをどこかのタイミングで痛めつけたらしく、せいせいした顔をしていた。どうりで最近は見なくなったわけだ。
「防具が欲しんだけどわたしのサイズがないんだ」
昼の酒場でロフンは蜂蜜ミルクを飲んでいる。茶化したら腰にぶら下げている丸盾でぶん殴られる(前科一犯)のでマグルは黙っておいた。
「魔法使いの人ってみんな薄いよね。防具っていうか服」
「なんつうかな。肌に空気が振れている方が魔法の威力が高いんだよ」
「本当かよ?」
「気になるならマグルの体で試してもいいんだぞ」
右手と左手に【アクアランス】を撃って比べっこだ。と不穏なことを言い始めるので話を変える。
「そういや女の子用の防具って見ないよな」
「言われてから気付いたけど、そうだね。うちも取り扱ってなかったなぁ。弓使い用の胸当てならあるけど」
「どこか知らないか?」
「ロフンがでかくなればいいんじゃね? もっと喰えよ」
「うるせぇ馬鹿マズル。それ以上くだらねぇこと言ったら、胃にアウズンプラの睾丸を詰め込んでやる」
「まあでも方法は、無くはないかな」
ベルントは防具を二つ買い、必要な部分を切り取って一つの防具にすることを提案した。ロフンはもちろん承諾。気前のいい手間賃を渡そうとしたが、ベルントは頑なに拒んだ。
「どう?」
「いい感じ。 エセ防具屋だったらぶっ叩いてるところだ」
「手を上げてみて。うん。腰ひねって。むむ」
「なんだよ。もういいだろ」
「ちょっと腰が擦れるね。調整しなきゃ」
天を見上げ、ため息をつく。うんざりしたロフンが癇癪を起こすのを、はらはらしながらマグルは見ていた。
防具を脱いでは着せて、ベルントがガチャガチャと繋目をいじぐったり、仮結びしたヒモの長さを調整したりする。
「どうして防具が欲しいんだ? 前衛が欲しい依頼があるならやろうぜ」
「わたしってソロだけどよくパーティに誘われるだろ? その時に全員が信用できる
わけじゃねぇんだ。後ろから見てるとよく分かる。こいつは危なくなったら逃げるやつだとか。あいつは仲間のために命張れるやつだとかな。そうでなくても急造でパーティに入ると見捨てられる確率も上がる。だから防具は大事ってわけだ」
「足の傷もそれか」
右の太腿にある大きな爪で抉られた傷は、治る際に周りの肌を引きつっている。
「ああ。玉無し野郎がわたしの盾にならずに避けやがって、あいつ次に、もがもが」
ロフンが喋っている最中でも構わずベルントは上から防具を着せてくる。
「出来た!」
「……うん。いいな。有難うベルント」
髪と同じく、水色の革鎧はぴったりとロフンの体を覆っている。笑顔になったロフンは性格を加味さえしなければ可愛らしい小さな女の子だった。
「整備が必要になったら言ってね」
「おう。助かる」
「その丸盾はじゃあそういう理由か」
ロフンの戦闘スタイルは片手に杖と、もう片手に盾という異色の組み合わせだった。
「盾はいいぞぉ。命救われるからな」
「確かにその杖が折れたら高そうだ。しかも大して防げない。だったら盾持つのはアリか」
「お前も持っとけよ。構えるだけなら馬鹿でも使えるぞ?」
「俺はいいや。大剣を両手でしか扱えないし」
「ベルントは直剣なら片手で持てるだろ。まさか盾はダサいとか雑魚の考えじゃねぇよな。それにお前はお節介だからな、また知らない喧嘩の間に入るかもしれない。盾があった方が安心だ」
うんうん。ロフンは自分の言葉に頷いている。
ベルントが盾を持って、いったい誰が安心するんだよ。そう聞いたら魔法を撃たれるかも。マグルは言葉を飲み込むことを覚えた。
「ううん。確かに?」
「よしわたしが見繕ってやる。行くぞ!」
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