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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮


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第16話 牙と解毒薬

 ヨルムルの尻尾に飛ばされたベルントは木に頭を打ったらしい。頭を振り、意識を正常に戻そうとしている。尻尾の回転を辞めると球状の土埃がすぐに収まる。姿が見えた。ヨルムルは頭を頂点にとぐろを巻いている。目が動き、二人を交互に見る。

 なんだありゃ。自ら動きにくい体勢になったようにしか見えない。


「ベルント大丈夫か?」


「だいじょうぶ」


 ヨルムルはぐっと溜め、体全体をばねにして頭から飛び出した。ベルントを襲う。


「くうぅ」


 マグルと同じように上顎を盾で受け、下顎を足で踏んだ。頭を打ったせいか、ベルントは牙の上に足を置いてしまう。自慢の防具をものともせずに突き刺さった。

 毒。脳内でその文字が瞬時に浮かんだ。

 やばい。早く解毒薬を飲ませないと。


「抑えてろ」


 駆け寄り、上から大剣を思いっ切り振り込む。ヨルムルの頭を切断した。地面までいった感触がある。


「この、この」


 ベルントが剣で口を刺す。首を切られているのにヨルムルはまだ喰らいついていた。生きているみたいに目が動き、マグルを睨んだ。渾身の力を籠め、下顎を狙った。半分まで裂けたところで筋肉が切れたみたいだ。ベルントが口から脱出する。ヨルムルの頭を押して。ベルントの足を牙から抜く。唾液か、傷口から糸が引いた。


「早く解毒薬を飲め」


 ベルントは腰のベルトに手を入れて探ったが、首を振った。


「僕の割れてる」


 木に激突した時か。フラスコ瓶は飲み口の細いところで折れて、残りはどこかへ消えている。マグルも荷物を探る。くそ、俺のもだ。瓶だから仕方ない。すぐ飲めるようにと行動用の小さなバックに入れておいた。それが間違いだったとは思わない。戦闘開始直前で地面に置ければよかったが、そんな余裕は全くなかった。


「すぐに解毒薬を持ってくる。楽にしてろ」


「マグル」


 ベルントが拳を突き出す。まだ信じられなかった。ゴツンと合わせると、その手ごたえで実感した。栄光への階段をまた一歩昇ったことを。


「これで俺たちB級冒険者だな」


「酒樽は買わないけどね」


 ベルントが笑った。


「すぐ戻ってくる」


 走って川沿いの拠点に戻る。

 マジックバックに入れてある予備の分は二つ。自分は毒をくらってないけど、血は浴びた。一応飲んどいたほうがいいだろうか。いや、飲むにしてもベルントの毒が治療できたのを確認してからだな。

 拠点が見えた。気が抜けたら腹が減る。バックパックには携行食が入っていたから、それを食いながら戻ろう。

 バックパックの蓋が開いていた。変だなと思った。閉めた記憶がある。近づいて、確信する。マジックバックが盗まれている。


「ふざけんな。どこだ。どこだ。どこ」


 周囲を見回す。どこかに転がっていてくれと思いはしたが、マグルが見たのは地面じゃなかった。

 川を渡った向こうに人影があった。ちょうど土手になっている向こうに姿が消える瞬間だ。

 男と目が合う。嗤っていた。

 最近見たことがある。すぐに誰か分かった。ウバソのパーティの、弓使いだ。

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