オマケ① アイゼさんの魔法は怖くない
「大丈夫かしら?」
アイゼは独りになった部屋で、昼食を終えた後のお茶を楽しんでいる。クッキーはボラさんから頂いた。スノーラは自分も手伝ったと誇らしげだった。漂う素朴な小麦の匂いに甘みを探し、物憂げに窓から見える空を眺めている。
こんこん。
あら?
音のする方へ視線を下げる。
「邪魔するぞ」
森の小動物ならほんわかするけれど、ハゲ頭じゃあねえ?
「あらビゼイルさん。入ってきていいわよ」
「あいや、すぐ行くのでな。困ったことはないか?」
「あら優しいのね。見たいものがあるからじゃなくて?」
わざとらしく腕を組むアイゼにビゼイルの顔がほころぶ。
「むほほ。まあ、半分本当じゃ。なにかあれば気軽に言っとくれ。具合が悪くなったりしたらボラに言えば大丈夫じゃろう。力仕事もまだまだわしがやれるぞ?」
ビゼイルの真心に、アイゼも微笑む。
「それなら地図はあります? 村のじゃなくて、王国が乗っているの。なるべく大きくて、詳細なのがいいわ」
「それなら世界地図があるがの。そのう、貴重なもんじゃから」
「分かってるわよ。うふふ。傷つけたりなんかしないわ」
「学者様には杞憂じゃな」
待っていろと言って、ビゼイルはすぐに持ってきてくれた。アイゼは茶器をどかし、世界地図をテーブルに広げる。
大きく見れば下が短い台形のような大陸だ。それを上下に区切る山脈が横に走った。
下側、左にラディッキ王国がある。山脈で区切られた大陸の五分の一くらいの大きさだ。同じくらいの大きさで、右隣にホタ帝国があった。アイゼの実家は帝都にある。ホタ帝国の下と右側を包み、海に面しながら山脈まで七つの小さな国が並ぶ。昔の地図だ。今は七つの国が統合され、諸国連合として一つの国に成っている。アールの故郷であるモイも、諸国連合の一部となった。
「こんなものどうするもりじゃ?」
「いいから。クッキーでも食べていってちょうだい」
そう言われたビゼイルは素直にクッキーを手にする。お茶も出しておいた。
アイゼは玄関から杖を持ってくる。それと一枚の葉っぱ。
葉っぱを地図上のラザニ村に置くと準備は完了だ。
アイゼは両手で持った杖に魔力を込めた。緑色の魔石が怪しく光り、内側から紫色の靄が滲み出る。ちょうど蝋燭の炎のような小さな火が現れた。さながら杖を照らすように周りを囲む。あっという間に魔石は緑色から赤紫色に変わった。――すると触ってもいないのに、葉っぱが震えた。
「なんじゃぁ」
ビゼイルが怯えたような声を漏らす。
杖をトロフィーのように掲げ、アイゼはもう一段階魔力を強める。ぐっと、部屋の中の空気が固くなった気がした。
葉は急速に水気を失い、ついに茶色く枯れた。さらに萎れて小さくなっていく。頭の上に魔法陣が現れた。共鳴するように地図が光り、葉がするすると滑っていく。
茶色く枯れた葉がカサリと止まった。トマッ都の上だ。
「これは――」
「着いたみたいね」
「まさか、アールヴァクの位置か」
この魔法があれば、戦場から離れた戦略室でリアルタイムに作戦が練られるのではないか。
「この葉はね、アールの腕に巻いた神樹の枝に生っていた葉なのよ。どのくらい離れているか、そしてその方向を表わす魔法なの。だから地図の上でやればどこに居るか分かるわ。縮尺は調整と、あとは慣れが必要だけれどね」
「ふむう。凄いのう。しかし」
調整と慣れが必要という割にはピタリとトマッ都で止まっている。
まるで何度かやっているようじゃの……。
――ハッ!
ビゼイルの横から視線を感じる。剣があれば構えていたかもしれない。
アイゼが見ていた。目を開け、にっこりと妖しく笑って。
今は埃をかぶった戦場の勘が、早鐘のように警告を発している。
「この魔法。まだ続きがあるんだけれど。知りたいかしら?」
「いや……。わしはこのあと重要な用事があったような、なかったような。うむ、心配だから帰るとするかの」
「あらぁ、残念ねぇ――」
「残念じゃのう。残念じゃなあ。いやあ見たかった。で、ではな」
そそくさと帰るビゼイルの背中は、やはりじゃが芋のように丸かった。
※ここまで一章です。
いつも私の稚作を読んでくださる方、そしてここまで読んで下さった方へ、有難う御座います。オマケは章ごとに付けるつもりですので、それが章の変わる合図と思ってください。
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