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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
一章

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12/24

第11話 トマチ―

 夕方になる前にはモッツァ村に着くことができた。時間が早かったお陰で宿もすぐに取れる。


「あんたエルフだろ。治療魔法はできるのかい?」


 宿の女主人に聞かれたが、首を振る。

 どうやら、村で腰が不自由になってしまった人が居るそうだ。

 なんだい、と落胆された。そのせいか部屋も廊下から一番手前の、騒々しい部屋を案内される。


「うがぁ。疲れたちかれた、もうしんどい」


 どっかりと雪崩れ込む。アールは荷物を置き、弓の弦を外した。矢筒の中から、状態の悪い矢羽のを一本と、ルルビーから回収できた二本の矢の手入れをする。


「お湯を貰ってきたらどうだ」


「……ふん」


 ビレステはうつ伏せの状態から、ベッドにどっかりと胡坐を組む。


「なによ。アイゼさんみたいに治療魔法が出来る人って珍しいんでしょ?」


 枕を抱え込んだ。


「それにちょっと詠唱が遅いからってさ。嫌な感じっ」


「魔法を使えると聞けば、知らない人間は四属性を全て使えると思うものだ。あと詠唱が遅いとは言われていない」


 治療魔法は水属性だが、それは分類上のものだ。四属性と治療、それに無属性と分けるのが適当だとアールは考えている。


「そんなのどれだけ偉大な魔法使いでも無理よ。いくら詠唱に時間を掛けたって、魔物の群れを一網打尽に出来る人なんてそういないんだから」


「そうだな。それに魔法の美しさに、早いか遅いかはないからな。私が求めている魔法は――」


「お湯貰ってくる!」


 出て言ったビレステがお湯を使う間、散歩でもしようと外に出る。

 やはり王都に近いだけあって、ラザニ村とは活気が違う。住んでいる人数はそれなりだろうが、冒険者や商人、旅人で道は賑わっていた。それを呼び込む屋台の声が耳をくすぐる。

 乗合馬車の時間を確認すると、そろそろかと宿に戻った。


「お帰り。アールもお湯貰ってきたら?」


 濡れた髪をガシガシとタオルに押し付けている。


「そうだな」


 アールはビレステに近づき、顎を下から指で上げた。


「え。ちょっ……」


 唇を見つめられ、ビレステの頬はリンゴも真っ青になるほど赤くなった。

 目を閉じた方がいいのか、突き飛ばして蹴って枕で追撃した方がいいのか。頭の中を秒速一キロでグルグルする。


「血色はいいな。また気を失いそうな予兆はないか?」


 また倒れられては、明日の乗合馬車を逃すかもしれない。


「……」


 無属性魔法でルルビーを弾いたことを思い出した。ビレステは恥ずかしさに叫び出し、今なら王都まで夜通し走れた。枕を取り、バシバシとアールの肩を叩く。


「このくらい元気だから大丈夫っ」


 それから頭のタオルを被り、前髪を拭く。火照った顔が落ち着くまでそうしていた。

 一方で、ビレステの奇行には慣れているアールは平然としていた。


「私は夕食後にお湯を貰う。外に出よう。モッツァ村はチーズの塊をトマトで煮込んだ、トマチ―が名物だ。薄く堅いパンも付いて来るが、軽い歯ごたえでそれも美味しいぞ。食べて置いて損はない」


「なにそれ。めっっっちゃ美味しそうじゃん。行こう行こう」


 また外へ出る。いつの間にか夕暮れだ。

 散歩をしている間に見つけた店へ向かう。途中で、人だかりが出来ていた。屋台に並ぶ様子でもない。

 軽やかな弦楽器の音が聞こえる。単調だが趣のあるメロディだった。


「なんだろ」


 ビレステがつま先立ちで奥を見ようと、ふらふらしながら人混みの輪へ近づく。

 アールもゆっくりと後ろを追った。



「さあみなさん。夕食の前座にしては満足感のある話を聞いていってくれ。お腹一杯になっても文句は言わないでくれよ。

 ――七つの国から成る諸国連合。

 移り行く国王は円盤の上を回っていく。運命が指し示した先に奇跡が起きた!

『怪傑』と呼ばれた生ける伝説、オーズが現れたのだ。最強の王。その男は深窓の令嬢の腹の底から夜を割るように出てきたが、真相はどうだろう。広がる海を裂き、地価を削ると現れる赤い海から生まれたと言う人もまたいる。はたまた空で無数に瞬く星、その一つが虹を描いて落ちてくる。そこに乗っていたと話す人も居る」



「吟遊詩人だな」


「あれがそうなのね。私、すっごい前にラザニ村に来た時見れなかったの。ボラさんに怒られて、修道院の窓を隅から隅まで擦らなきゃいけなくてさ」


「私も見たのは数えるくらいだ。珍しい」


「そんなに珍しいの? 幸運の女神が微笑んでるねぇ」


 吟遊詩人の男の語り口は軽妙で、どこか聞き入ってしまう。

 銅貨や銀貨が足元の箱へ投げられていく。ビレステもお小遣いから銅貨を出した。

 吟遊詩人の男と目が合う。

 唾広の帽子の下は年齢不詳で、若いとも年老いているようにも見える。


「「――」」


「なんか、目合っちゃったね。長いこと」


「エルフが珍しかったのかもな」


「楽しみだなぁ。トマチー!」

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